AIをまとって”参加”する ver.2
*25/07/10 小見出し1項目と2本の記事紹介を追記しました。
今日の高次脳機能障害外来の診察で伺ったお話。
うちの通院メンバーのお一人でいわゆる社会起業家の方。AIについては常に最新の情報にキャッチアップするよう心がけているという。起業家である以上、当然の、ビジネス上の要請の話かと早とちりしたのは当方。その真意は
「AIをまとえば、障害があっても”参加”が可能になる。」。
生成AIは使える
現在、生成AIの技術は日進月歩、毎週、こんなことができるようになったあんなことも可能だと新しい発表があり、もはやAGIまであと一歩のレベルにあるのだそうだ。
今や生成AIは音声入出力などコミュニケーションとアクセシビリティの面で劇的な進歩があり、また、多くの雑多で複雑な情報を整理してまとめてしまうことも容易かつ瞬時に可能なのだという。
これが意味するところは、AIを使用することにより、リアルタイムで、情報や作業の処理ができるようになったということだ。
議事録作成が楽になる
ごくシンプルな例として議事録作成。うちのメンバーでも企業の中枢で議事録作成業務に携わる方は少なくない。皆、一様に訴えるのは、議事録作成はとても負荷が大きい、ストレスのかかる業務だという点だ。曰く、複数同時処理が苦手(複数発言を、聞きながら、まとめて、書く、なんて無理!)、ワーキングメモリが小さい(発言の内容を把握しにくい)、集中が続かない・疲れやすい、ete.というわけだね。人によっては議事録作成の前日は毎回、憂鬱になってしまうとおっしゃる方もあるくらいだ。
ところがですね、AIはリアルタイムで会議の発言を記録する(文字起こし)のみならず、複数の発言が交錯する会議の流れを、1発言ごとに(!)リアルタイムで、そこまでの内容としてまとめてしまうことさえできる。つまり、うちのメンバー達のように、複数発言の会話の流れについていくのが難しいと感じている人(コージノーあるあるでしょ)に対して、常に会話内容にキャッチアップできるようにしてくれるわけだね。リアルタイムに個別の発言内容をまとめつつ、会議が終了すれば、全体の議論の流れを整理してわかりやすくまとめてくれるという。実際、この起業家の方は、議事録作成はAIに任せてしまってほぼ問題ないそうだ。
会話に参加できる
これ、議事録作成に限らず、日常業務の指示受けなんて場面でも楽になるはずだし(指示をメモに取るのが大変という人は多いよ)、もっと言えば、プライヴェートのコミュニケーションをも大きく変えてしまうポテンシャルがあるのではないか。
うちのメンバーには知人友人ご近所さんなど、複数での会話についていけない(会話の輪に入れない)からと、お付き合いを諦めてしまう人も少なくない。そんな時、AIが会話内容の理解をサポートしてくれるなら、臆することなく、おしゃべりを、他者とのコミュニケーションを楽しめる、つまり、社会参加が可能になる。
伝えたいことをまとめられる
もう少し身近な例で、これも外来で伺った話。うちのメンバーの皆さんは、診察の際に話したいこと、伝えたいことをメモにまとめて持参する方が多い。で、皆さん、これが結構大変だという。うちのメンバーの特性として、言いたいことをまとめるのが難しい、更にそれを文章として表現するのだから大変だ。診察の前はメモづくりで疲れてしまうという方もある。
今日受診のあるメンバーの方、AIにメモを作ってもらったのだという。なんでもスマホを買い替えたところ、生成AIが搭載されていた。早速、診察時に伝えたいことなどを、AIと対話したのだね。会話、対話だからとりとめのない話だったのかもしれないけれど、AIはそれをしっかり、”伝えたいことメモ”としてA4一枚にまとめてくれたようだ。実によくできたメモで、感心しましたよ。もっと感心したのは、このメンバーさん。メモにまとめられていたのと同じ内容を、しっかり、診察室でお話になっていかれましたよ。よくここまでになった。はなまる進呈。
これはGoogle端末のGeminiらしいが、他のスマホやPC、他のAI でも同様でしょう。診察前夜にメモづくりに苦闘している他のメンバーも、生成AIに手伝ってもらえば楽だよ!
支援が変わる
最近、診察の際に、メモのとり方を指導することが何度か重なった。皆、困っているのだろうね。そこで便宜のため、メモの取り方について簡単に記事にまとめ、後はアップするだけにしておいた。その記事でもメモ記載時の留意点やそのための対人スキル、更に、ITツールの利用について触れ、練習して習得することを勧めたわけね。記憶障害のために脳の中に記憶できないのであれば、スマートフォンという”電子頭脳”、頭蓋骨の外にある”脳”に記録すれば良いわけだから、メモ帳代わりにスマホなどのITツールを使うと便利だよ、とかね。
しかし先程の話で、”外部の脳”であるAIが、対話して(!)聞き取りして、まとめて、記録して、必要な時に教えてくれる、そこまでやってくれるのであれば、我々が指導してきたメモ取りの技術習得のための練習はもう、不要になるかもしれない。指導・支援の方法論が根底から変わるわけだ(だからメモのとり方記事のアップは不要かなと思ったけど、AIが使えない場面もあるし、また、練習法を知りたいというリクエストも頂いたので、アップしてあります)。
社会的自立を支援するツールとしてのAI
ここでは議事録作成やメモの例を挙げたが、高次脳機能障害で苦手になった作業や情報処理を生成AIを介することによりこなせるようになる。常々、高次脳機能障害は環境への不適応、環境との相互作用による両者の軋轢と表現してきたけれど、生成AIには、この個人と環境の不適応・軋轢を仲介して、両者を齟齬なくマッチさせてくれるポテンシャルがありそうだ。
件の起業家の方は、自身の高次脳機能障害を踏まえた上で、AIについて、「(事務処理など特定の場面ではあるが)障害がチャラになる可能性が出てきた。」との認識をお持ちという。生成AIは高次脳機能障害のある人にとって、社会的自立を実現するための強力な支援ツールになりうるだろう。
もちろん、AIは万能ではない。周知のように生成AIのハルシネーション(存在しない情報や誤った情報の生成)は実用上、大きな阻害因子となる。現状では常に人によるファクトチェックを意識せねばならない(AIによるAIのファクトチェックは論理として破綻しているよね?違うかな)。
また企業秘密や個人情報に関わる場所には、そもそも個人の端末を持ち込むことができないだろう。そのような場面ではアナログかつアナクロな技術を駆使せねばならない場面もあるかもしれない。
あるいは、障害の社会モデルの観点から、環境調整としての生成AI設備の導入を検討することも社会として考慮すべき課題であろう。
生成AIには、まだ克服すべき課題もあるとはいえ、高次脳機能障害のある人にとっての社会的自立と参加を可能にする方法論として今後、大きな意義を持つようになるのは確かであろう。であるならば、我々支援者は常にその技術動向に着目し、支援の現場に取り入れていく姿勢を持ちたいものだと感じた次第。まあ、支援者より当事者の方がAIを積極的に取り入れていくかもしれないけどね。実際、筆者のほうが通院メンバーに教えられているのだから(筆者が時代にキャッチアップしてないだけだけど)。
追記:当事者による情報発信
筆者の地元ブロックでは、リハ講習会などの場での当事者による情報発信に対して積極的に登壇しようという方が比較的多いのだけれど、全国的には必ずしもそうではないらしい。講演先では、登壇してくれる当事者が少ないという話を伺うこともある。多くの人前に出て話すということ自体、障害の有無に関わらず、敷居が高いだろうし、まして、高次脳機能障害の方には、先述のように、言いたいことを端的にまとめて話すのが苦手な人が多いから、当然かもしれなない。
筆者は常日頃、当事者による情報発信を勧め、うちのメンバー諸氏にも発破をかけているのだけれど、この記事で紹介した議事録作成や診察前メモ作成のように、伝えたい内容をラクに文章として表現できるツールとして生成AIを利用すれば、当事者による情報発信のハードルはぐっと下がるだろう。
読者諸氏も早速始めてはいかがでしょう。
おまけ
それにしても、だ。筆者がAIの研究をしていたのはもう30年も前、90年代中葉。当時は三層構造の人工ニューラルネットワーク(ANN)を使って診断や病態の解析への応用を研究していたのだけれど、人間には検知しにくい微妙なパターンの差異を認識できるシステムといった感じだった(それでも正答率9割程度は実現できていたよ)。その後、この手のANNは一時、進歩が停滞していた時期があったのだけれど、それが数年前から、学習データを巨大にすると質的変化をきたすようだという話になったかと思ったら、あれよあれよという間に、このありさまだ。診察時にも話が出たのだが、映画「ターミネーター」の世界(AI同士がコミュニケーションを取り、人類を排除する結論に至る世界)になりつつあるんじゃないかと、あまりの進歩の速さに、空恐ろしくなるね。
まとめ
・AIをまとえば、障害があっても”参加”が可能になる
・”障害がチャラになる”可能性
・議事録作成のような複数同時処理もリアルタイムで任せられる
・複数での会話にキャッチアップするための支援ツールになりうる
・AIを使えばメモのとり方も変わる
・AIと対話しながら言いたいことをまとめられる
・ハルシネーション対策・ファクトチェックの必要性
・生成AIは社会的自立を支援するツールとなりうる
・生成AIは当事者による情報発信の力強い味方になるだろう
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