転勤したくない?断ってもいいんですー転勤の避け方・断り方【決定版】|いち人事が語る
あなたは「転勤」という二文字に、不安を感じたことはないでしょうか。
「そろそろ自分に辞令が出るかもしれない」
「家族がいるのに転勤になったらどうしよう」
「できれば転勤だけは避けたい」
「恋人(彼氏・彼女)と離れたくない」
もしかしたら、既に転勤の内示や打診を受けていて、困っているのかもしれません。
「転勤、したくない」
あなたがそう思うことは、決してわがままでも、社会人として未熟だからでもありません。
実際に、『エン転職』が2022年に実施した1万人規模のアンケートでは、実に**64%が「転勤は退職を考えるきっかけになる」**と回答しています。
年代別では、20代・30代は7割以上が「なる」と回答。
男女別では、男性よりも女性がキッカケになることが分かりました。
あなたのその感覚は、多くの社会人が共有するものなのです。
むしろ、ごく自然な感情です。
…転勤辞令が出た日、私の同僚Aさんは「転勤を断る」という決断をしました。一般的には「転勤は拒否できない」「社命には従うべき」と言われています。
実際、多くの人がそう信じて、渋々転勤を受け入れています。
しかし、法的根拠、判例、会社の配慮義務を理解した上で動けば、転勤を避けるための選択肢は、想像以上に多いのです。
本記事では、人事経験20年程のいち現役人事が、以下をお伝えします。
✓法的には転勤を拒否できるのか、その「限界」
✓上司や人事が「転勤を諦める瞬間」とは
✓実際に転勤を避けた人たちが使った、10の具体的な方法
✓転勤を避けることの「現実的な代償」
✓あなたが下すべき選択肢
企業側と従業員側、両方の立場を知っているからこそ書ける、この情報があれば、あなたは「転勤は絶対」という思い込みから解放されます。
では、全力でご紹介します。
※尚、ここでいう転勤は「転居を伴う転勤」です。
第1章:転勤の基礎知識|転居を伴う・伴わないの違い
転勤とは、同じ企業内で勤務地が変わることを指します。
一見シンプルですが、転勤の中身を分解すると、大きく2つの種類に分かれます。本記事では以下の①転居を伴う転勤を前提にお話を進めます。
①転居を伴う転勤
例:東京本社の営業から大阪支社への異動→大阪への引越しが必須
②転居を伴わない転勤
例:東京本社から横浜支社への異動→現住所から通勤可能のため引越し不要
この違いが、あなたの人生に与える影響は極めて大きいです。後述する「デメリット」の多くは、①の転居を伴う転勤によって生じます。
なぜ日本企業には転勤制度があるのか
これは、日本的な採用・雇用形態の歴史に遡ります。欧米のジョブ型採用は「この職務、この勤務地で、この業務をしてください」と職務内容が限定されます。
一方、日本のメンバーシップ型採用は、会社が従業員を育成・配置することを前提としており、その過程でジョブローテーション(配置転換)が組み込まれています。転勤はこの仕組みの一部です。
つまり、転勤制度は日本的な長期雇用・人材育成システムの産物なのです。
第2章:会社が転勤を命じる根拠|あなたの契約書に何が書かれているか
会社が転勤を命じられるかどうかは、雇用契約書や就業規則の内容、そして個別の事情によって判断されます。一般には、勤務地限定の特約があるかどうかが大きなポイントになります。
転勤がある企業では、「業務の都合により、業務内容の変更や勤務地の変更を命じることがある」などという文言が必ずと言っていいほどあると考えます。
特別、業務について限定されていたり、勤務地について限定されていない限りは、一般的には、企業側が転勤を命じられる余地があります。
その上で、実際の転勤発令に際しては、以下の点がポイントになります。
業務上の必要性
転勤命令の動機・目的の正当性(不当な動機・目的ではないか)
労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるかどうか
の3点となります。
これらが担保されていれば企業の転勤命令は基本的には有効となるでしょう。
第3章:転勤のデメリット6つ|家族の負担から人生設計まで
デメリット① 家族への様々な負担増加
家族がいる場合は、”転勤”が家族に与える影響も甚大です。そもそも、まず、転勤を単身赴任でするのか家族帯同でするのかという大きな決断を迫られることになります。そして、どちらを選んでも負担が発生します。
単身赴任の場合
二重生活による生活費の増加
住宅ローンのある持ち家がある場合、住居費の二重負担
配偶者への家事・育児負担の集中
子どもの養育を一方に任せることへの精神的不安
家族帯同の場合
子どもの転校問題(年齢によっては受験等への影響も)
配偶者の退職・キャリア中断
世帯収入の一時的減少
配偶者の孤立(新しい土地での人間関係ゼロからのスタート)
デメリット② ライフイベントへの計画が難しくなる
私が人事として見てきたのは、転勤がライフイベントの計画を著しく難しくすることです。
独身者の場合:
転勤予定のある人は婚活市場で敬遠されやすい
遠距離恋愛による別離
人間関係の再構築
既婚者の場合:
出産時期と転勤時期の重複
子どもをもうけるタイミング(家族計画)
子どもが複数いる場合、成長段階での転校
私が見た事例では、結婚→入居(仲介手数料・礼金支払い)→数ヶ月後に転勤→前の家の違約金+新転勤先での家探しという三重苦を経験した人がいます。結婚式場も既に手配していたため、転勤先からの挙式…コスト面での打撃は数百万円レベルでした。
デメリット③ 引っ越し等の準備・必要な手続きは全部「私用」扱い
会社によって差はありますが、会社は各種費用こそ一定負担してくれはするものの、手続きは基本、全て個人が当然やる必要があります。
新居の選定、契約
引越し手配、荷造り・荷解き
市町村への住所変更手続き
銀行・保険・通信各社への変更手続き
子どもの転校手続き
これら全ては「業務外」です。企業によっては「転勤休暇」という制度がありますが、これは「仕事ではない」ことを明示している証拠でもあります。
デメリット④ 住宅を購入しづらい
「家を買ったら転勤」なんて話を聞いたことがある人もいるかもしれません。転勤の可能性がある人にとって「家を買う」という選択は人生における大きなギャンブルです。
「どこに定住すれば良いのか」が不明確
ローンを組んでも、転勤で単身赴任や売却を迫られる
売却する際に損をする可能性
結果として、多くの転勤族は生涯賃貸のままになります。これは生涯コストで数千万円の差になる可能性があります。
デメリット⑤ 知らない土地での生活のストレス
新しい土地では、当然ながら知人・友人がいません。会社では新たな同僚とのつながりができますが、プライベートでの孤独感は想像以上にこたえるものです。
特に、配偶者にとってはこの孤独感が深刻になることがあります。従業員本人よりも、むしろ家族のメンタルヘルスが懸念されるケースも少なくありません。
デメリット⑥ 支出が増える可能性
転勤には「手当」がつくケースもありますが、それでトータルの収支がプラスになるとは限りません。
特に、持ち家がありながら単身赴任となったケースでは、住宅ローンの支払い+赴任先の賃貸+帰省のための交通費がかさみ、手当ではカバーしきれずに毎月の持ち出しが増えるというケースがあったりします。
ここまで、転勤の基本的な仕組みと、それに伴う具体的なデメリットをお伝えしました。
「そうそう、これが不安なんだよな」
「やっぱり転勤は避けたい…」
そう感じていただけたのではないでしょうか。では、いよいよ本題です。
転勤を「断る」ことは、実際に可能なのか。そして、可能だとしたら、具体的にどんな方法があるのか。
第4章:判例が示す「転勤拒否の限界」|正攻法で断れる条件とは
「転勤は拒否できないのか?」という質問に対する答えは、「正当な理由があれば、断れる可能性がある」です。
ただし、その「正当な理由」のハードルは非常に高いです。
ここでは代表的な3つの判例をもとに、「どこまでが許され、どこからがアウトなのか」を読み解いていきます。
転勤を拒否できない典型的な判例
事例① 帝国臓器製薬(単身赴任)事件
製薬会社に勤務するX(上告人)が、東京営業所から名古屋営業所に転勤を命じられ、妻及び三人の子供と別居せざるを得なくなったことを違法であるとして、右転勤命令の無効確認と、単身赴任を強いられたことによる損害賠償を求めたケースで、右転勤命令は業務上の必要性に基づくものであり、それによる不利益は社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるとはいえず、権利の濫用に当たらないとして棄却した原審判断が正当として維持された事例。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07383.html より
「家族と離れたくない」という心情だけでは、法的な拒否理由にはなりません。
事例② ケンウッド事件
東京都品川区に居住し、目黒区の会社本部から八王子の事業場の同一部門に配転になった女性従業員が、通勤時間が長くなり、三歳の幼児の保育園送迎ができなくなり、家庭生活も破壊されるとしてこれを拒否し、長期間(三六日間)出勤しなかったため停職処分を受け、後に懲戒解雇されたケースの上告審で、第一審と同様、右停職処分及び懲戒解雇を適法とした原判決が相当であるとして女性従業員の上告が棄却された事例。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07405.html より
子どもの送迎困難も「通常甘受すべき程度」の範囲内と判断されました。
ここまでの2件で分かるように、転勤を拒否するハードルの高さについてどことなくわかっていただけたのではないかと考えます。
実務上、該当する事情があるかどうかは個別事情によります。
では、拒否できる正当な理由とは?
事例① 明治図書出版事件
教科書・学習参考書の出版等を主たる目的とする株式会社Yに勤務するXが、Yの発した転勤命令につき、共働きの妻がいること、二人の子が重度のアトピー性皮膚炎で治療院に週二回通院していること、および将来的に両親の介護の必要があること等を理由に、当該転勤命令は無効であるとして、同命令に基づく就労義務がない仮の地位を定める仮処分命令を申し立てたケースで、転勤命令を無効なものとして拒むことができる「正当な理由」がある場合とは、当該従業員に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等の特段の事情が存する場合をいい、Xについて生じている、共働きの夫婦における重症のアトピー性皮膚炎の子らの育児の不利益はこれに当たるとして、Xの申立てが認容された事例。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08097.html より
法的に転勤を拒否できるラインは、「重症の子どもの継続的な治療」+「共働き」+「将来的な介護」という複合的な事情が重なるレベル。単独の理由ではなく、複数の深刻な事情が積み重なって初めて認められる水準だと理解しておくべきです。
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