無口の美学
「パストライブス/再会」という映画を観た。
ロケ地がNYで、遊びにも行ったことがあったので、当時歩いていた、自由の女神像やマンハッタンブリッジの空気を感じながら、鑑賞した。
12年ぶりにNYで再会した恋仲の2人の別れのシーン。
女性はアメリカで結婚しているから、これでもう2度と会わないことになってしまう。
‥お互い見つめ合って何も言わずに、抱擁する。
こんな雰囲気のある場所で、今後一生会うことのない別れのシーンなんて、何も言わない方がいいに決まってる。
ただ、コミュニケーションもそうだけど、「何を言うかではなく、何を言わないか」が大切だと思う。
相手に伝えない方がいいこともある。
人の悪口、噂話、自慢話、それに自分の資産の話や病気の話だって、‥他人に口にした途端に尾鰭がついて、全部自分に返ってきたり、信用を失ったりする。
口は災いのもとなのだ。
また映画の話になるけど、「ナミビアの砂漠」で、彼氏が同棲している彼女に「会社の旅行先で風俗に行ってしまった」と辛い顔をして告白する。
おそらく罪悪感で押しつぶされているから、告白して楽になりたいのと、きちんと伝えた方が誠実な気持ちもあるんだろうけど、それを聞いて一番辛い思いをするのは、彼女の方だ。
「ぜんぶ伝えたほうが誠実だから」「自分の過去や病気のこと、悪い部分も、事前に相手に知っておいてほしい」という気持ちで、正直に話してくる子もいる。
健気で、真面目さは伝わるが、本音を言うと聞きたくなかったこともある。知らないままの方が良かった、と思うこともある。
相手はもちろん真剣な顔をして、聞いてくれるけど、ぜんぶ受け入れらないこともあるし、もしかしたら、あなたがいないところで悲しい気持ちになってるのかもしれない。
「パストライブス」の2人はお互いの気持ちや生活を考えて、あえて12年の空白の穴埋めをしなかったし、自分の気持ちを相手に伝えなかった。
そこに、「無口の美学」を感じた。
あなたの告白は、もしかしたら、相手を傷つけるし、悩ませるのかもしれない。
その思いやりが伝わった。
相手のことを知るのも大切だし、自分のことも知ってもらうのも、大切だけど、この世界には、知らなくていいこともある。
何も知らずに、隣で楽しそうにしてくれたら、それでいい。
だって知らなければ、過去に何も起こらなかったのと同じだから。
何を言うかではなく、何を言わないか。
自分のことを話す前に、受け入れてほしい、と思ったら、相手がそれを聞いてどう感じるか。
これを言ったら、自分の評価が下がるな、面倒なことになりそうだ、という打算もあっていいと思う。
ほんのちょっとのズルさと相手に対する思いやり。
「パストライブス」のラストシーンは、口を閉じて、じっと相手の目を見つめるだけで、相手に対する思いやりが伝わるシーンだった。
‥NYまた行きたい。

