朱色につつまれて ~十勝平野~
吐き出す息が真っ白に凍りつく、午前6時の十勝平野。
まだ誰も踏みしめていない雪の丘で、
その時が来るのをじっと待っていました。
はじめに
風景写真を撮るということは、自然が時折見せてくれる「奇跡のような振る舞い」を、ほんの少しだけ分けてもらう作業なのかもしれません。
今回は、ある冬の朝に出会った、言葉では言い尽くせない神秘的な朝焼けのお話しです。
三角頭の防風林
防風林の三角頭が、淡い闇の中に整然と並んでいます。
空を見上げると、厚い雲が蓋をしたように広がっていました。
「朝焼けは無理かもしれないな……」
そんな思いが頭をよぎります。
けれど、風景撮影において「期待通り」ほど退屈なものはありません。
凛と張り詰めた空気の中、三脚にカメラを載せ、ただ風の音に耳を澄ませます。
光のいたずら
もうすぐ日の出というときに異変は地平線の向こうから始まりました。
雲の隙間から、見たこともないような深い朱色がじわりと滲み出し、瞬く間に横一線の帯となって広がっていったのです。

凍える防風林を優しく包み込むような温かな光。
それは自然が仕掛けた「うれしいいたずら」のようでした。
雪原の青い影と、空を焼く朱色の対比。
カメラのシャッターを切る指先は感覚を失うほど冷えていましたが、ファインダー越しに見える光景に、胸の奥が熱くなっていきました。
それからしばらく待っても太陽は顔を出してくれません。
すでに太陽は昇っている時刻なのですが。
それでも待っていると空は、均一ではない、不均質な金色のグラデーションに染まりました。
雲が光を遮り、あるいは乱反射させる。
今日、2度目のいたずら。

カメラの設定(露出やホワイトバランス)をいじること以上に、この「色の変化」に心を動かされている自分を自覚する。
それが、風景を撮る一番の醍醐味ですかね。
おわりに
カメラを手にすることは、世界の美しさに気づくための「感度の高いアンテナ」を持つことと同じです。
たとえ予報が曇りでも、たとえ指先が凍えそうでも、その場所に立ってみなければ出会えない光があります。
もし、あなたの部屋の隅にカメラがあるのなら、明日の朝は少しだけ早く起きてみませんか。
完璧な一枚を撮ろうとしなくていい。
刻一刻と変わる空の色を、あなたの心とレンズで追いかけてみてください。
そこにはきっと、あなただけの物語が待っています。
