またおいで。
仕事が休みだった。
休みの日は息子も保育園を休ませて2人で過ごすのが通例になっている。
よく褒められたりもするが、基本的にインドアで外に用事があるわけでもないので、自然とそうなってるだけ。
朝は妻を駅まで一緒に見送り、電車に乗りたい息子を説得しつつ帰宅。
そこからYouTubeの広告スキップをせがむ息子と家事を行ったり来たり。
その後は公園に行った。
平日午前の公園は貸切状態。
息子は赤いブランコが大好きだ。
「あか ぶらんこ!」と言って今日も一目散にかけていく。
足をはめるタイプのブランコで、安全なので親も見ていて安心。
乗ると必ず「うえ!うえ!」と言って押すことをせがんでくる。
すべり台をすべらず階段を降り、ありさんごっつんこの歌を一緒に歌いながらありの観察を終えたあと、公園の近くに地域の会館を見つけ、ミニ人間が吸い込まれるように入っていく。
入り口だけで済まそうと思う親をよそに、中の手すりにアンパンマンの人形を見つけたミニ人間は靴を脱いで更に奥へと入っていく。
狭い廊下に長机が並べており、そこで管理人のおじさんがラジオを聴きながら何やら事務作業をしていた。
おじさんの傍には大きい金魚が10匹ほど入った水槽と、メダカの水槽があった。
魚が好きな息子に、「みて!おさかなさんいるよ」と声をかけると、「おさかなさんだ〜!」と息子も興味津々だった。
おじさんが不意に席を立って事務所の方に消えていった。
しまった、事務作業のお邪魔をしてしまった。
心の片隅でそう思いながら、言葉にならない言葉で必死にさかなの説明をしている息子に相槌を打っていた。
すぐに、後ろからおじさんの手が視界に入った。
「ごはん、あげたげて。」
おじさんが持ってきたカップの中には魚のエサが入っていた。
小さなBB弾のような魚のエサを、恐らく初めて見る息子に、「これはおさかなさんのごはんなんだよ」と説明した後、息子はニヤリと微笑みながら魚にエサをあげた。
「あんまり手入れると食べられるよ。」
入ってきた時は厳格に見えたおじさんの、優しい声が心地よかった。
エサをあげたあと、作業をしているおじさんの背中側には本棚が並んでいることに気がついた。
小難しそうな歴史書。
年季の入った黄ばんだ本。
不揃いのマンガ。
まさに、会館の本棚って感じのラインナップだった。
子ども向けの絵本や図鑑もあり、恐竜の図鑑を手取った息子はおじさんの延長線上の机でパラパラと2〜3ページ見た後、そっと本棚に直した。
廊下はその先も2メートルほど続いていて、少し薄暗かったが余裕で奥まで見えた。
ただ、ミニ人間には長くて暗い廊下が続いているように見えたらしい。
「きて〜こわいよ〜おばけ〜」といって怖がるポーズをしていた。
「そろそろ買い物に行こうか。」と息子に声をかけ、おじさんに「あーとぉ」とお礼を言ってバイバイをした。
「またおいで。」
やっぱり優しい声が心地よかった。
はたらくくるまの歌を歌いながら自転車でスーパーに着いた。
「父さんと一緒に歩いてね。」
この時の「うん。」ほど信じられないものはない。
自動ドアをくぐるやいなや、目的もなく駆け出すトップランナーの手をしっかりと握った。
お弁当コーナーにいくと、「えい」と言いながらランナーがお弁当のフタをペシンと叩いた。
「あ、こらこら!」と注意するも、その白身魚フライ弁当のフタに【1割引】の表示を見つけ、「お、やるやん」と息子の目利きを勝手に評価した。父の昼ごはんが決まった。
お菓子コーナーではグミを買ってとせがまれた。
「グミたべたらぽんぽん痛くなるよ、もう少しお兄ちゃんになったらね」
と、何の科学的根拠もない話に息子は頷き、お兄ちゃんになったらグミを食べようとゆびきりげんまんをした。
買い物が終わると、「おてつだいして〜」と声をかけ、私が持つビニール袋のもう一端を持ってもらった。こうすると不思議とランナーのランニング欲が下がるのだ。
家に着いて、息子は妻の作り置きを、私は白身魚フライ弁当を食べた。
食べ終わる頃、息子の機嫌はグラデーションで悪くなった。眠いのだ。
最後の一口をこちらで食べさせた後、寝室へ向かった。
私の腕の中で丸まったミニ人間はすぐに寝息を立てた。もうトップランナーの面影はない。
小さな寝息のBGMを聞きながら、顔の産毛がわかるほど、じっくりと観察した。
こんなに可愛いやつはいない。
1時間もすると、起きた。
いつもに比べて短いが、本人はすっきりした様子だった。
「おりる〜!」とせがむ息子をよそに、ここぞとばかりにほっぺに何回もキスをした。
くすぐったがる息子の笑い声でこちらもつられて笑ってしまう。
「これが幸せってやつか」
ヒゲでほっぺを赤らめた息子に謝りながら思った。
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