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もう一度、あの場所へ

小学生の頃、駅の旅行店に置いてある海外のパンフレットを、よく持ち帰っていた。

帰るとすぐに、二階にある自分の部屋に猛ダッシュ。
駄菓子屋で買ったビックリマンチョコと、パンフレットを落とさないように駆け上がった。

部屋の隅の狭いくぼみに三角座りをすると、そこは私だけの秘密基地だった。

少しの緊張とともにパンフレットを開く。
一ページ、一ページ。
大切にめくりながら、食い入るように見つめた。

そこにはまだ見ぬ新たな、美しい世界が広がっていた。

憧れていた。

家の窓から見る何層もの夕焼けのグラデーションに感動する。
夜に星を見上げては涙する。
小さい頃から、そんな人間。

パンフレットの中の世界を見たら、
どれほど心が震えるだろう。

いつかこの目で。

学生になった私は、小さい頃に抱いた熱を胸に、アメリカへ向かった。

初めて見る広大な景色。
見るものも、食べるものも、そのすべてに胸を躍らせていた。

けれど、その記憶は一瞬で黒く塗りつぶされた。

同時多発テロ。

私はあの日、アメリカにいた。


旅行の最終行程。
グランドキャニオンを目前に、そこへ向かう小型機を待っていた。

それは、私の夢の一つだった。

大きくなったら、一番最初に行きたいと強く願った場所。

「もう飛行機は飛ばない」

英語を勉強中だった私にも、その言葉の意味だけはすぐに分かった。
あの光景が今でもはっきり目に浮かぶ。

何が起こったのか分からなかった。

冷静を取り戻した時には、自分の夢がどうこうなんてもはや考えられないほど、深い、深い悲しみが心に刻まれた。
テレビに繰り返し映る映像と共に。

あの時、夢も心に閉じ込めた。


そして時は流れ、私は結婚し、母になった。

子どもには夢は大きくと言い聞かせ、そう願った。
同時に、私の夢は何なのかと心に問う時は、

「あなたたちが幸せになればそれでいい」

「◯◯ちゃんのママ」
その呼び名は、ママ友の世界だけではなく、時々自分自身を見失わせる呪いかもしれない。

私にも大切な夢があったはずだ。
いつか閉じ込めた。

春に夫とクロード・モネ展を訪れた。
本物は言葉にならないほど、素晴らしい。
目の前にあるモネの絵。
所蔵を見ると、オルセー美術館だった。

「この絵を見るのは人生で最後だね、きっと。」

と呟いた私に、

「見に行けばいいじゃん」

夫はそう言った。

あまりにも自然に。

その瞬間、驚きと共に長い間胸につかえていた何かが、すっとほどけた。

幼い頃に抱き、触れてはいけないような夢をもう一度追いかけたい。

夫は、私が持病を抱え、長時間のフライトはもう無理かもしれないと分かっていた。
それでも、迷いなくそう言った。

モネの絵が涙で滲んだ。

自分のこと、子どものこと、家族、大切な人のこと、あふれんばかりの夢を抱えたっていいじゃないか。

この目で見てみたいと思うもの、
一つ一つ叶えたい。

私はその夜、英語のアプリを入れた。

行きたい場所はたくさんある。

モネも見に行こう。

そしてもう一度。

グランドキャニオンへ。


必ず、あの場所に行こう。

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