【創作 青春】青森県 大鰐町 ~愛をしるために~

 野呂哲男です。
 少し前、キャバクラで気になっていた女性をデートに誘いました。
 OKはもらえたのですが当日ドタキャン。
 その後しつこくLINEを送ってしまい、「もうお店には来ないでください」と言われました。

それ以来、愛というものがよく分からなくなりました。


 気分転換に青森県大鰐町へ来ています。
 電車を降りると、静かな町でした。
 川が流れ、山が見えます。
 とりあえず川沿いを歩いてみることにしました。

 しばらくすると喫茶店を見つけます。

けっこう古い感じがしますがまだ営業しているようです。
少し疲れていたので入ってみました。

「いらっしゃい」

 店内にはジャズが流れていました。
 私はブレンドコーヒーを注文します。
 香ばしくて少し苦い。でも後味は優しい。
 美味しいコーヒーでした。

「この辺は雪がすごいんですか?」

 私が聞くと、

「冬はね。朝起きたらとりあえず雪かきしねばまいね」

 とマスター。まいねって津軽弁かな?
 けっこう訛りが強いな。

 少し沈黙が流れます。
 私は思い切って聞いてみました。

「マスター、愛って何ですかね」

 マスターはカップを拭く手を止めました。

「難しいこと聞くねえ」

 少し考えてから、

「相手の幸せを願うことだべがな」

 と言いました。
 なるほど。
 しかし友情もそうではないでしょうか。

 私は店を出てまた川沿いを歩きます。

 友情とは何だろう。

 考えながら歩いていると、味のありそうな古い商店街、シャッター街がありました。
その中から営業してるスナックを見つけました。

 昼から営業しているのは珍しいですね。 
 田舎のスナックのママも興味あります。
 せっかくなので入ってみました。

「いらっしゃいませー」
 
「ここいいですか?」

「どうぞ」

感じのいいママだ。席に着く。

 ママが聞きます。
「旅行?」

「まあそんな感じです」

「大鰐なんて珍しいねえ」
 
 私はハイボールを注文しました。 
 炭酸が強くて爽やかです。
 歩いた後なのでよけい美味しく感じます。
 店内では常連さんが競輪の話をしていました。

 よく分からないので黙って聞いています。

「ママ、友情って何だと思います?」

 私が聞くと、

「急に重たい話になったねえ」

 と笑われました。

「でもさ、恋人だって元は他人だしね」

 その言葉が妙に引っかかります。
 他人。

 他人とは何だろう。
 私は地元民の競輪の話題をBGMに、また考え始めました。

 飲み終わると僕はお会計を済ませ、店を出て町を歩いてみます。


 古い建物がちらほら残っています。
 なんだか時間がゆっくり流れているようでした。

 すると今度は津軽三味線の音が聞こえてきます。

 居酒屋三味線酒場でした。私は入ってみることにしました。適当に席につきます。

「兄ちゃん一人か?」

 地元のお客さんが声をかけてきます。

「そうなんです」

「旅行なら地酒飲まなきゃ駄目だ」

 ということで日本酒を注文。
 口当たりは柔らかいのに後からしっかり旨味が来ます。
 旅先で飲む酒は少し特別です。
 さっき飲んだハイボールの酔いがまわったのか口が軽いです。
 失恋した話もしちゃいました。

「まあ人生そういうこともある」

 と慰められました。
 私は今考えていることを話します。
 愛を考えると友情が出てくる。
 友情を考えると他人が出てくる。
 他人を考えるとまた愛に戻る。

「なんだかぐるぐるしてるんです」

 すると隣のおじさんが言いました。

「考えすぎじゃねえか?」

 たぶんその通りです。

 「とりまこれめえぞ、食ってみな」
 
 そういわれ、地元名物のもやしをつまみながらお酒を楽しみ、酔いも手伝い、思ったより会話ができました。

 「そろそろ、行きます。いろいろ話をきかせてくれてありごとうございます。」

「あん、へばな」

 へばな?意味がわかりませんでしたが、「じゃあな」ってことでしょうか?
 僕は軽くお辞儀をし、お会計を済ませ店を出ました。


 次は温泉にいきたいと思います。
 川沿いを歩いて行きます。
 入浴前にもうちょっと酔いをさましたほうがよさそうです。

 水の流れる音が聞こえます。
 山は近く、空は広く見えました。
 風が心地よく、日本酒で少し熱くなった頭を冷ましてくれます。

 愛とは何だろう
 友情とは何だろう。
 他人とは何だろう。
 考えてみますが、答えは出ません。

 川はそんなことに関係なく流れています。
 私もとりあえず流れに任せることにしました。
 
 そして町の温泉へ向かいました。

 受付を済ませ、脱衣所で服を脱ぎます。
 浴場へ入ると、ほのかに温泉の匂いがしました。             
 かけ湯をしてから湯船へ足を入れます。
 ちょうどよい湯加減です。
 肩まで浸かると、歩き疲れた体がゆっくりほぐれていくようでした。


 私は小さく息を吐きました。
 こういう時間も悪くありません。
 その時です。

 『お客様にお知らせします』

 館内放送が流れました。

『付近で熊の目撃情報がありました』

 私は思わず顔を上げます。

 周囲もざわつき始めました。

『熊は──』

「わいはー!」

「まんだな、」

「どごだば!?」

「近げんだが!?」

「ちょ、さしねー!」

 地元のお客さんたちの津軽弁が飛び交う。
 みんな騒ぎすぎて肝心の場所が聞こえませんでした。

 私は少し焦りました。

 風呂を出る頃には、愛も友情も他人もどうでもよくなっていました。
 今は熊です。
 愛より熊。
 友情より熊。
 他人より熊。



 町の温泉を後にし、警戒しながら歩きます。
 人間の悩みというものは不思議です。
 もっと大きな問題が現れると、案外忘れてしまうものらしい。

 少なくとも今夜の私はそうでした。

 とりあえず無事に家へ帰りたい。
 愛について考えるのは、熊のいない場所に着いてからにします。
 今の私が一番会いたくない他人は熊かもしれません        


                  (完)


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 なお、このお話は事実をもとにしたフィクションです。
 実在の人物・団体・店舗とは関係があるような、ないような気もします。


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