【第141回】ドラッグストアの闇⑩「出店至上主義が現場を疲弊させる理由」
「今年度、〇〇店出店。」
決算発表や中期経営計画で、出店数の目標が大きく掲げられることがある。
出店数は、成長の分かりやすい証明として扱われやすい指標である。
しかし、その裏側で何が犠牲になっているかは、あまり語られない。
出店至上主義の実態
多くのチェーンにとって、出店数は株式市場や取引先に対する分かりやすいメッセージになる。
「成長している会社」であることを示すために、出店数の目標が経営計画の中心に据えられることは珍しくない。
しかし、出店を急ぐあまり、新店に既存店から経験豊富な人材を引き抜く、という判断が日常的に行われている。
結果として、新店はオープン景気で賑わう一方、人材を引き抜かれた既存店は、戦力が薄くなったまま営業を続けることになる。
なぜこの構造が生まれるのか
理由は、出店という「新しい成果」の方が、既存店の「維持」よりも評価されやすいことにある。
新店の立ち上げに関わった人材は、経営層から見えやすい形で成果を示すことができる。
一方、既存店を守り続けることは、「悪化しなかった」という消極的な評価にしかならないことが多い。
この評価構造の非対称性が、優秀な人材を新店に集中させる動機を生み出している。
さらに、出店計画そのものが、現場の人員体制を十分に考慮しないまま決定されることもある。
「出す」という意思決定が先にあり、「誰が回すか」という検討が後回しになっている構造である。
この構造がもたらす弊害
弊害①:既存店の質的な劣化
経験豊富な人材が新店に引き抜かれた既存店では、接客品質や発注精度が低下しやすくなる。
これは、出店数という分かりやすい指標には現れてこない静かな劣化である。
弊害②:人材育成が追いつかない
出店ペースに対して、店長やベテランスタッフの育成スピードが追いつかないと、経験の浅い人材が無理に責任者として配置されることになる。
これは、新店・既存店の双方で、サービス品質のばらつきを生む要因になる。
弊害③:疲弊の連鎖
新店立ち上げに駆り出される人材は、その後も次の出店のたびに異動を繰り返すことがある。
このような人材は、慢性的な負荷を抱えたまま働き続けることになり、結果的に最も優秀な人材から疲弊し、離職していくという皮肉な結果を招く。
あるべき姿とは
出店による成長戦略自体は、否定されるべきものではない。
商圏が縮小していく中で、新たな商圏を取りにいくことは、重要な経営判断である。
問題は、出店数という「量」の目標だけが先行し、それを支える「人」の設計が後回しになっていることにある。
あるべき姿は、出店計画と人材育成計画を、同じ会議体で同時に検討することである。
具体的には、
・出店計画には、必ず「人員体制計画」をセットで提出させる
・新店立ち上げに関わった人材のその後のキャリア・負荷を追跡し、特定の人材への負荷集中を可視化する
・既存店の「維持・改善」も、出店と同等の評価軸として経営会議で扱う
制度設計としての具体案
・出店の意思決定プロセスに、「誰が新店の中心を担うか」という人材確保の見通しを必須項目として組み込む
・新店立ち上げ経験者の異動履歴・負荷状況を人事データとして追跡し、連続異動を制限するルールを設ける
・既存店の店長・スタッフの定着率や育成状況を出店数と並ぶ経営指標として定期的に報告する
これらは、出店のスピードを落とすためのものではない。
出店を支える「人」の基盤を守りながら成長するための仕組みである。
結論
出店数は、成長を示す分かりやすい指標である。
しかし、その裏側で既存店の質や人材の疲弊が進んでいるとすれば、それは本当の意味での成長とは言えない。
見るべきは、何店舗出したかではなく、出店を支える人材が、健全な状態で働き続けられているかどうかである。
拡大のスピードと、現場の持続可能性。
この2つのバランスを取れているかどうかが、本当の意味での成長企業かどうかを決める分かれ目になる。
次回
ドラッグストアの闇⑪
「本部KPIと現場実感のズレはなぜ埋まらないのか」
※ドラッグストア商品部長・店舗運営部長としての経験や現場視点から、実在の出来事をもとに抽象化・再構成して書いています。特定の企業を指すものではなく、業界に共通する構造について述べています。
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