傷ついた記憶がふと戻る夜に|からだは、もう少し知っている
傷あとが、やわらかくなる日
袖の長さを迷う季節が来ます。
脱ごうとして、やめた。
朝はまだ冷たくて、また羽織った。
傷あとにも、そういう季節があるように思います。
骨折が治っても、その場所だけ雨の日に少し重くなる、という話を聞いたことがあります。
傷のあとも、消えたのではなく、からだに馴染んでいる。
重くなる日があることは、まだそこにあることの知らせかもしれません。
前に受けた痛みが、もう終わったはずなのに、ふとしたきっかけで、
同じ場所が静かにうずくことがあります。
もう大丈夫だと思っていたのに、と少し戸惑うこともあるけれど。
それは、戻ってしまったわけではなくて、
まだそこに、痛みの記憶が残っているということなのかもしれません。
冷たい風にあたったとき、古い傷が、かすかに反応するように。

でも、よく見ると、前とは少し違っていることもあります。
前は避けるしかなかった場所に、少しだけ、立ち止まれるようになっている。
気づかないうちに、からだは、時間をかけてその痛みの扱い方を、少し変えていたのかもしれません。
無理に忘れなくてもいいし、急いで乗り越えなくてもいい。
ただ、「前よりも、少し立ち止まれるようになっている」と感じる瞬間が、
もしどこかにあれば、それで十分です。
傷が消えたのではなくて、そのままでも少し触れられるようになってきた。
それだけで、今日は十分なのだと思います。
袖を決めかねた朝のように、まだ途中のままでいい。
急がなくても、からだのほうが、少しずつ先に歩いている日があります。
ゆきの

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