言いそびれた言葉に|閉じた頁のあいだに、まだ温度がある
朝、本棚の前を通ったとき、一冊だけ少し飛び出しているのに気づきました。
開いてみると、栞が挟まったままでした。
いつ読みかけたのか、思い出せない。
本を開いた拍子に、間に挟まっていた紙片が落ちることがあります。
あの日、伝えようとして、やめた言葉も、そんなふうに残っているのかもしれません。
相手の表情を読んで、間合いを見て、
「また今度でいいか」と思ったまま、今日になった。
閉じた頁のあいだに、
まだ紙のぬくもりだけが残っているように、
どこかに折りたたまれている気がする。
引き出しの奥から、ふと出てくる。
本を開くたびに、栞が落ちるように。
言えなかったことを、
ずっと悔やんでいるわけではない。
ただ、その夜のことだけ、
本の角にふれた指先みたいに、
まだ少し温度が残っている日がある。
言いそびれた言葉のあいだには、
その場をこわしたくなかった気持ちが、
薄く折りたたまれていることがある。
間合いを読んでいた。
言葉を選んでいた。
相手のことを、考えていた。
それを、弱さと呼ばなくてもいいのかもしれません。
本を閉じたまま、何年も経つことがある。
開かなくても、頁と頁のあいだには、まだ少し温度が残っている。

栞が持っているのは、場所ではなく、あの日の体温かもしれない。
言いそびれた言葉も、そういうものかもしれない。
言えなかった日のあなたが、きっとそこにいた、ということ。
浮かんでいなくても、構いません。
もし今朝、
何かが少しだけ残っている気がするなら。
本棚の前で立ち止まり、
背表紙に指を置くだけで終わる朝があってもいい。
ただ、その重さが手の中にあることを知るだけで、
今日はそれで十分な朝があるのかもしれません。
ゆきの

【ココミチの「心の図書館」へようこそ】
この記事が、あなたの心に少しでも余白を届けられたなら幸いです。
「ココミチ」では、これからも心のゆとりと小さな気づきをお届けしていけたらと思います。
🌸 次に読む記事を探すなら
【迷ったら、まずここへ】
あなたの今の気持ちから、次の一冊を見つけられます。
