何から始めればいいかわからない日に|ボタンをひとつ、かけ直した
こんにちは、ゆきのです。
朝、少し遅くなっていた。
頭の中にはもう今日の段取りが並んでいて、手だけが先に動いていた。
上着を羽織りながら、袖口のボタンを留めようとした。
入らなかった。
もう一度押し込もうとした。
また入らなかった。
焦るほど、指先がうまく動かなくなる。
穴に押し込もうとするほど、生地が引っ張られて穴が小さくなる。
こめかみのあたりに、うすく圧がかかっていた。
何度やっても、入らない。
少し、手を止めた。
生地をつまんで、ほんの少しゆるめてみた。
そうしたら、すっと入った。
手首のあたりに残っていた力みが、その瞬間だけ抜けた。
玄関の空気が、少しだけ広くなった気がした。

急いでいたのに、止まった方が早かった。
そのことを、指先がさきに知っていた。
ボタンのことだけではない、と思った。
それは以前から、うすうす気づいていたことでした。
心身のバランスを崩していた頃、夜になると同じことが頭の中を回っていました。
あの返事は正しかったか。
明日どう動けばいいか。
何かを変えなければ。
考え続けることが、前に進むことだと思っていました。
手を動かし続けることが、止まらないことが、誠実さの証だと思っていた。
でも考えながら眠れなくて、考えながら朝になって、また同じ場所にいる。
穴に押し込もうとするほど、生地が引っ張られていた。
あのボタンと、同じことをしていました。
止まることを覚えたのは、ずっと後のことです。
立ち止まることは、諦めではなかった。
生地をつまんでゆるめるような、ほんの小さな動作でした。
力を入れ続けていたのは自分の手で、生地を小さくしていたのも自分だったと気づいたとき、こめかみの圧が少しだけ抜けた。
生地をゆるめた瞬間、すっと入った。
力を入れていたのは、動こうとしていた手だった。
家を出る前の、ほんの数秒のことだった。
ゆきの

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