色が薄く見える夜に|光の入り方だけが変わっていた
こんにちは、ゆきのです。
スマホを置いた。
目の奥に、まだ画面の明るさが残っている気がした。
誰かの週末の写真。
誰かの食卓の色。
誰かの朝の景色。
それより先に感じたのは、
自分のいる部屋の空気が、急にくすんで見えた、という感覚だった。
カーテンは、さっきと同じ色のはずで。
テーブルの上のコップも、前からあったものなのに。
画面を閉じた瞬間だけ、部屋の彩度が少し落ちたように感じる夜がある。

カメラには、フィルターというものがある。
同じ景色を撮っても、フィルターを変えると、別の色になる。
鮮やかにも、夕方のような橙にも、冷えたような青にも。
被写体は、何も変わっていないのに。
画面の中で見た誰かの暮らしは、たぶんいくつかの光が重なっていた。
好きな時間に撮られた光。
少しだけ調整された色。
その人がいちばん好きな角度から見た景色。
鮮やかなのは、嘘だからじゃない。
ただ、フィルターが、違った。
自分の部屋を、スマホのカメラで撮ったことがある。
なんとなく、試してみたくて。
明るさを少し上げると、テーブルの木目が柔らかくなった。
暖色に調整すると、さっきまでくすんで見えた空気が、少し温かい色になった。
部屋は、何も変わっていなかった。

フィルターの話をしているのは、
「あなたの生活だって輝いている」と言いたいためではない。
そうやって励ましに変えてしまうと、
感じたことが、どこかへ行ってしまう気がして。
ただ、あの夜の「自分だけがくすんでいる」という感覚が、
光の入り方が変わっただけで起きていたのかもしれない。
そう思えたとき、少しだけ楽になった。
くすんで見えた日があっても、その通りではないかもしれない。
鮮やかに見えた日があっても、それだけではないかもしれない。
色は、あまり当てにならない。
でも、感じてしまったことは、本当のことだ。
画面を閉じて、しばらく経った。
コップに少しだけお茶が残っていた。
陶器の縁が、唇に少し冷たかった。
色より先に、それだけが届いた。
ゆきの

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