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PT・OTから聞かれた、腎機能に関する3つの質問

カンファが終わって帰ろうとした、
その瞬間だった。

「HONOさん、腎機能って運動に関係あるんですか?」

同僚のPTさんに声をかけられた。
聞いてくれたことがとっても嬉しかった。
リハに直接『腎機能』を結びつける、という内容の質問はいままでなかったから。

この記事は、そのときの会話をそのまま書き起こしたものです。

そして、私が20年以上薬剤師をやっている今も「回復期病棟の面白さ」だと感じている話でもあります。


なぜ薬剤師が腎機能を気にするのか

そのPTさんが近づいてきたとき、
私はちょうど患者さんの薬歴を見直していた。

「HONOさん、ちょっといいですか?腎機能って、リハビリに関係あるんですかね?」

私は一瞬『どこから話そうか…』と思った。

薬剤師が腎機能を気にする理由は、シンプル。
薬の多くが、腎臓から体の外に出ていくから。

飲んだ薬は血液に溶けて全身をめぐり、最終的には尿として排泄されます。腎臓がその「出口」の役割を担っているわけです。だから腎機能が落ちると、薬が排泄されずに体の中に蓄積していく。

薬の多くは腎臓から排泄されます。腎機能が低下すると、薬が“抜けきらず”体内にたまり、過鎮静・ふらつき・転倒リスクへとつながります。だから薬剤師は、リハ前後でも腎機能のトレンドを追っているんです。

蓄積すると何が起きるのか。

たとえば睡眠薬や抗不安薬なら、
過鎮静が起きます。

「なんとなくぼーっとしている」
「ふらつく」という状態です。

痛み止めなら、
胃腸障害や腎機能のさらなる悪化。
抗生剤によっては聴力への影響や、
筋肉のけいれんが出るものもあります。

そしてなにより、転倒リスクが上がる

こう話をすると
PTさんの表情が少し変わった気がした。
「転倒」という言葉で、
急に自分ごとになったんだと思う。

「……それって、リハビリ中にも出るんですか?」

「出ます。薬の効きすぎが、歩行練習中のふらつきや、反応の遅れとして出てくることがある。腎機能が落ちているのに薬の量を調整していないと、特に」


回復期病棟でよく聞かれる、3つの質問

その日の会話をきっかけに、PTさんだけじゃなく、OTやSTの方からも少しずつ声をかけてもらえるようになった。聞かれる内容は、だいたい3つのパターンに集約されていく。

質問① 「リハビリ中に腎機能が悪化することってあるの?」

これはOTの方から聞かれた質問です。
「リハビリ自体が腎臓に負担をかけることってあるんですか?」

この質問を受けたとき、
私はどう答えようか迷ってしまいました。
頭の中に「横紋筋融解」という言葉は浮かんだものの、「どこまで、どう説明すればいいか」で一瞬止まった。

いまでも、
こういう「整理しながら話す瞬間」があります。

「可能性としてはあります。たとえばリハビリの強度が急に高くなったとき、筋肉が大量に壊れることがある。それを横紋筋融解といって、壊れた筋肉のかけらが腎臓に詰まって機能を落とすことがあるんです。めったにないことですけどね。」

「え、筋肉が壊れる……?」

「運動後の筋肉痛も、筋繊維が微細に傷ついている状態ではあるんですけど、それとは比べ物にならないレベルの破壊が起きたとき、です。だから急激な負荷を急に与えることには慎重になる必要があって——」

「尿が赤くなるって聞いたことあります、それですか?」

「そうです、まさに。コーラ色の尿が出るのが典型的なサインです」

それから私はこう付け加えた。
「あとは、脱水も腎臓に直撃します。リハビリ中に水分補給が十分でないと、血液が濃くなって腎臓への血流が落ちる。造影剤検査の前後も特に注意が必要で——」と話すうちに、OTの方が「造影剤ってCTとかで使うやつですよね」と確認してくれた。

そういうやりとりが好きで、
私は回復期をやっているのかもしれない。


質問② 「eGFRが低い患者さん、リハビリ強度を下げるべき?」

これは同じPTさんから、
後日改めて聞かれた質問です。

「eGFRが30台の患者さんがいるんですけど、リハビリ強度を落としたほうがいいですか?」

数値だけ見たら、確かに低い。
でも私は、
「数値だけでは決められない」と答えます。

「eGFRの数字は大切な指標ですが、それだけで強度を決めるのは危険なんです。その人が今どんな薬を使っているか、栄養状態はどうか、症状が出ているかどうか——そのセットで考えないと」

「症状って、どんな症状ですか?」

「倦怠感が強い、足がつる、息切れする、食欲がない、むくんでいる……そういったことが重なってきたら、腎臓の状態が数値以上に悪い可能性を疑います。逆に、eGFRが低くても自覚症状が少なくて栄養状態が保たれているなら、慎重にリハビリを進められることもある」

「つまり、数値と症状を合わせて見る、ということですね」

「そうです。私も担当医と確認しながらですけど、薬の視点では『この患者さん、腎排泄の薬が多いな、減量が必要かも』とか、『脱水のリスクを上げる薬が入っているな』という情報を持ってカンファにいくようにしています」

PTさんは少し考えてから言った。
「そういう視点、私たちにはなかったです」
そう言ってもらえると、ほんとに嬉しい。

質問③ 「この患者さん、むくんでるけど水分制限していいの?」

これはナースから受けた、
最も「怖い」質問のひとつ。

「足がむくんでいて、心不全もあるんですけど、水分を制限したほうがいいんですかね?」

一見「むくみ=水分が多い=制限すべき」と思えます。でも、それだけでは判断できない。

「心臓と腎臓はつながっています。心臓の機能が落ちると腎臓への血流も減って、腎臓が水分を保持しようとする。このしくみを心腎連関と言います。だから、むくみの原因が腎臓なのか、心臓なのか、栄養不足による低アルブミンなのかによって、対応がまったく変わってくる」

「利尿剤を使えばいいじゃないですか?」

「利尿剤は確かにむくみを取りますが、使いすぎると脱水になって、今度は腎臓に負担がかかる。電解質——ナトリウムやカリウムのバランスも崩れる。だから利尿剤の量と効果をモニタリングして、『今どこにいるか』を確認しながら動く必要があるんです」

ナースは少し眉をひそめた。

「結構複雑なんですね」

「複雑です。でも、複雑だから多職種で考えるんだと思います。むくみに気づいてくれるのはナースさんで、リハビリ中の変化を見てくれるのはPT・OT。そこに薬剤の視点を足すのが私(薬剤師)の役割だと思っているので」


私が多職種カンファで発言するとき

私がカンファ前に必ず確認するのは、
腎機能の直近のトレンドです。
eGFRが今週上がっているか下がっているか。
一点の数値ではなく、流れを見る。
それから、腎排泄の薬を使っていないか、量が適切かどうかを確認します。

腎機能の話をするタイミングは、
「患者さんの行動変化があったとき」が多いです。

「なんか最近ぼーっとしている」
「リハビリ中にふらつくことが増えた」
という報告が上がってきたとき、
薬剤の影響を疑うタイミングとして発言します。

数値が変わっていなくても、
「この薬を腎機能に合わせて調整した方が良いかもしれない」と提案することもあります。

毎回、すらすら全部出てくるわけではありません。
「持ち帰って確認します」と言って、後で調べ直すことも今でもあります。
でもそれで良いと思っている。
その姿勢を見せることが、「薬剤師に聞こう」と思ってもらうための第一歩だと信じているから。

大切なのは、答えを持っていることより、一緒に考えようとする姿勢を見せることだと、私はこの20年で学んできました。

PT・OTの方に「薬剤師に聞いてみよう」と思ってもらうためにしていることは、ただひとつです。

声をかけてもらいやすい場所にいること

カンファ後に少しだけ立ち止まること。
その意味では、病棟に薬剤師が常駐するというのはとてもいい環境だと思います。

PT・OTの方に読んでいただいているなら、
伝えさせてください。
「薬剤師に聞いてもいいのかな」と思ったとき、その感覚を大切にしてほしい。その「ちょっと聞いてみる」が、患者さんの転倒を一件防ぐかもしれないから。


6月から「リハ薬剤の現場から」というシリーズを始めます。
腎機能別の薬剤調整リスト、カンファでの実際のやりとり、多職種連携のリアル——回復期病棟から見えるものを、書いていくつもりです。
この記事はその0話です。続きを読んでもらえたら嬉しいです。


おわりに

「HONOさん、また教えてください」
とPTさんに言われたとき、
薬剤師をやっていてよかったと思った。

腎臓の話は難しい。
でも、伝え方次第で多職種の仲間になれる。
それが、回復期病棟の薬剤師の面白さだと思っています。

あなたの職場では、薬剤師に腎機能について聞いたことありますか?
「そんなこと聞いていいんだ」でも、「こんなこと聞かれたことある」でも、どんな声でも嬉しいです。
コメントで教えてください。


▼回復期で多職種と一緒に行っている『リハ薬剤』に関する記事はこちらから。


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