タイタンの妖女
ネタバレあり推敲なしの感想的なものなので、既読の方、未読だがネタバレありでも大丈夫な方向けです。
1 文学は推理小説に似ている
作者が細心の注意を払って埋め込んだ伏線を、表に出ている情報から推測し真実に辿り着く過程を楽しむのが推理小説。
文学も途中までは同じだが、推理小説と違うのは真実が読んだ人の数だけあることだと思う。
タイタンの妖女は古典SFであり文学でもあるので解釈は別れる。一通り読んだ感想はツイッターに上げたが、読後いろいろ考えたことをつらつらと書いていく。
2 マラカイ/アンクの人生
主人公マラカイは旧約聖書最後に記載されているマラキ書から命名されたのかな。マラカイ=私の天使、私の使者の意。名字コンスタントと合わせて忠実な私の天使or使者。
一方アンクはUnk。unknown(未知の、不明の)または unk-unks(わけのわからない災難)かな。
マラカイという名だけど、聖書で言えばヨブ記のヨブっぽくもある。パパが聖書の文章に沿って投資をすると全て大儲けして大金持ち……からの、一気に破産して追われる身になるとことか。
火星に行ってからは自由意思を奪われて命令通りなんでもやる→「神の意思通りに動かされる」を表現?
地球での大歓迎ーー「神は気にしない」教→極端な謙りの推奨を揶揄ーー英雄から一転、罪人へ
水星でのベアトリスとの愛情→地球へ帰還、ストーニイとの再会を夢見つつ死去。
3 神はどこにいるんだ?
混沌とした世界で、この問いは常在する。神の意思通りに生きるのが人間の定めというなら、何故こんな神の残酷な遊戯のような悲惨な出来事がなくならないのか。個々人の自由意志はないのか?
聖書によれば全ての元凶は原罪であり、より良い生き方は予め準備されているが人間の自由意思によって選択することが許されている−−と私は解釈している。予言と選択、タイタンの妖女ではラムフォードとマラカイによって表されている。
4 ベアトリス
ベアトリス(ベアトリーチェ)と聞くと、ダンテの神曲に出てくるヒロインを思う人も多いのでは。
美と神聖の女神のモチーフとしてでてくるベアトリスも、タイタンの妖女では自由意思を削られて生きる、しかし我が子への愛情はある女性である。
晩年になりマラカイと心を通わせ、マラカイの愛情を注ぐ相手となる。
5 人と人の関わり
不条理で容赦ない人生で意味があるのは、誰かに心を寄せること。信じあうこと。
結末部分を読むとそう受け取れた。サロが見せた「幸せな夢」はそういうことでしょう?
6 真実はひとつ!ではない時もある
読む人の数だけ真実があるのが文学。
昨今の小説に深みが欠けるのは、通り一遍の薄い示唆(とも言えない)しか含んでいない「わかりやすい」「読みやすい」文章がウケるからだろう。もちろん悪くはない。どんどん書いて(読んで)ほしい。入り口は大きければ大きいほど良い。軽い読み物を楽しむのも大好きだ。
しかし読者に謎を提示する、深く考えさせる本もたくさん出てきてほしい。知識系の本はその知識が欲しい人へのダイレクトな内容だが、SFや推理小説に分類されていても−−−エンターテインメントでありながら哲学があり、警鐘があり、その背後にある他作品を読むきっかけになる本。
まあ、好みという要因も大きいですけどね。
7 追記
ボアズというと公正で慈悲深い保護者というイメージ(ルツ記)。水星でのアンクの保護者でもあったのでやっぱりそういう役割なのかな。
聖書ではボアズとルツとの間にできた子が、アブラハムから始まるイエスキリストまでの系図の一翼を担っているし、ボアズ自身も救い主の青写真の一人だ。
