薄くない
(20章)
〈1〉
あるとき
ふと思った。
「薄い」
という字は
なぜ
あんなにも
忙しい字なのか。
〈2〉
くさかんむり
のあとに
さんずい
を書く
ここ
順番を
間違えてはいけない。
先に
くさかんむり。
〈3〉
ゆえに
他の字では
たいてい
勢いよく書ける
さんずいを
堂々と
上から
書くことはできない。
すでに
屋根がある。
〈4〉
次に
「専」を書く・・・
と思うが、
「薄」のなかにあるのは
「専」とは違う字。
上のほうに
「点」がある。
その「点」はいつ書くか。
どういうわけか
「もっぱら」のような字を
"もっぱら"書くのでなく
その途中で
「点」を書く。
そもそも
その字は
「専」とは違うから。
それはさておき
問題は
そのスペースだ。
〈5〉
「博」のときと違い
上のほうの
点の位置
なんだか
狭苦しい思いをする。
くさかんむり
との間のすきまに
ちょん、と。
「すみません
すみません」
と言いながら
荷物を置くスペースを
確保する気持ち。
〈6〉
そうして
出来上がった字を
見てみると
タテも
ヨコも
ちっとも
"薄くない"
ではないか。
〈7〉
こういう
どうでもいいことを
考えるのが
私は
好きだ。
〈8〉
ちなみに
私は
「薄い」
という
言葉の
意味も
好きだ。
〈9〉
そりゃ
ステーキや
パンケーキや
人間味は
厚いほうが
いいかもしれない。
ところが
「人間が薄い」
「薄く生きている」
「薄っぺらい」
というのも
まあまあ
連呼する
自分の形容に。
〈10〉
そう言うと
人から
「ちっとも
薄くないではないか」
と言われる。
それは
なぜだい?
私は
「薄い」
と思っているのに
「薄くない」とは。
〈11〉
確かに
私は
いろんなことに
興味関心行動が
わいて
関連用語が
多いかもしれない。
けれど
それで
自分の辞書が
「厚く」なって
いるようには
思えない。
〈12〉
それでいて
集中できるだけの
何かも
持ちあわせず
あっちを食べ
こっちを食べ
ひたすら
ビュッフェ
のような人生。
〈13〉
ビュッフェのお皿は
小さな部屋が
いくつもある。
仕切りのないお皿
と違い
味付けが混ざらず
それぞれの
個性を
保たれる。
ところが
おかずによっては
狭い。
〈14〉
時には
仕切りの上をまたがり
ドーンと
置くものまで
出てくる。
そうやって
載せる料理は
カタチが
そもそも
大きい。
どうやったって
はみ出てしまう。
なんなら
最初から
仕切りなど
なかったように。
そういう場合、
2つの部屋では
済まない。
4つくらい使う。
〈15〉
そうなると
他の部屋との
秩序が
保たれなくなる。
なぜ
あいつは
のうのうと
仕切りの上に
寝ているのか。
そういうことを
言うのは
そもそも
小さな「器」に
おさまる
小さなおかず。
〈16〉
けれど
その
小さなおかずにも
小さくないおかずにも
それぞれ
意味がある。
口に入れば
その存在感。
それぞれの味わい。
ひとつひとつに
むしろ
かたちなど見えない
スパイスに
舌を喜ばせる何かが
潜んでいる。
〈17〉
大きい小さいの
見た目でもない。
使う
スペースでもない。
人から見て
どうのこうのでもない。
私には
私の
仕切りのない
日々があり
毎日のうのうと
そこに横たわり
時に
観たい映画を観て
時に
会いたいひとに
会いに行く。
〈18〉
今週は
教え子にも会い
先生方にも会う。
生徒や
先生方の
記憶から
忘れ去られる
私の
薄っぺらい日に
極上のスパイス。
〈19〉
「薄幸」という
言葉がある。
その言葉は
どうも
自分には
しっくりこない。
薄幸と聞くと
細くて華奢な女性のイメージ
が浮かぶのは
私だけだろうか。
体型を
あれこれ言うのも
嫌だが
私は
細くない。
時に
胸板が厚いとも
言われる。
〈20〉
そうか。
それだな。
私が
自分を
「薄っぺらい」と言っても
否定されるのは。
背中を痩せる。
そう
それしかない。
薄っぺらい人生を
全うするために
今日から
筋トレメニューを
「厚く」する。
うんうん
その発想が
ますます
人間を薄くさせ
いい感じだ。
もうね
難しいことを考えず
かる〜く
うす〜く
のびのびと
楽しく
軽やかに
ダラダラと
グダグダと・・・
え?
さ、起きて!
筋トレしますよ!
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