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小説: ペトリコールの共鳴 ㉝

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第三十三話 ペトリコールの共鳴 ②


 外食する約束でハムスターの僕は海へ連れて来てもらったが、ネットで見た店らしい店がない。
飼い主のタツジュンはどこで何を食べる予定で海まで来たのだろう?

 僕を抱いたタツジュンは、短い草が青々と茂った木の下へ僕を降ろし、腕にかかっていた白い袋も降ろした。

 白い袋からは油の香ばしい匂いが漂い、タツジュンはリュックから鮮やかな青のシートを取り出すと拡げて角に大きな石を置いていく。

「キンクマ。お前が憧れていたマックだよ」

 僕がずっと欲しかっていたマックの商品が目の前に。白い袋からいい匂いがする。
 家から出ないハムスターの僕は、ネットで色々な広告を見る。見るだけで食べたことはない。

 ネット上で『サイゼリヤ論争』があったときも、僕だけは他の星にいるような、取り残された気分がして、いつも広告は虚像に思っていた。

 マクドナルドには、ハッピーセットがある。
お子さま向けのセットメニューで、おもちゃのおまけがついている。
 僕はハンバーガーを食べながら、おもちゃで遊ぶ夢がある。

 ハンバーガーは、茶色でぷっくりしたパンにレタスやハンバーグ、チーズ挟まって、とても美味しそうに見えた。
 みんなが食べる美味しそうなものを、僕も食べてみたかった。

 タツジュンはいつも朝はコーヒーとトーストで、
夜はスーパーのお惣菜や弁当を買ってくる。
僕にはひまわりの種以外にキャベツやレタス、ニンジンを用意してくれる。

 静まり返った部屋で、咀嚼音とひまわりの種を割る、こじんまりした音。
 白い壁紙の部屋は南向きで、時々緊急自動車が駆けてゆく。いつ話しかけていいか分からない。

 タツジュンと僕はお決まりの席に座り、タツジュンは椅子に腰掛け、僕は黄色いランチョンマット。

 向かい合って食べる食卓に会話はなく、タツジュンとご飯を食べるときはこういうものだと思っている。

 僕がペットショップにいた頃は陶器の容れ物に、ひまわりの種やドライフルーツ。
この家に来たときも暫くそうだった。

「キンクマ、ご飯だよ」「たくさん食べたね」
「今日はこれでご馳走様」
遥香の声は僕がご飯を食べると弾む。

 遥香はあまりご飯を食べなかった。
タツジュンひとりが弁当を食べる横で、遥香はパジャマのまま椅子に座っていた。

 遥香が入院する前、タツジュンは遥香の腰を摩りながら、ご飯のパックを電子レンジで温め、納豆をかけたものを合間を見て立って食べていたのを、僕は静かに見つめる。

 映画は家族がテーブルに揃って僕が見たことがないお惣菜が皿に盛ってあり、器がいくつも並んでいるシーンが普通だ。

 愛羅がこの家に来たときは初日に、キッチンから香ばしい匂いがして、翌日から夕飯はタツジュンと愛羅は外で食べていたみたい。

 僕は夜中にお菓子や菓子パンのクズを広い集め、
テレビ台や本棚の下に溜め込んでは食べていた。
淋しいとは思わない。

 でも、暗くて埃がある中でのご飯は侘しかった。