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hidemaro2005
ショート: これが理由です
駅までの道、毎朝、紫陽花の前に立つ男がいる。背は高いが猫背気味で、いつも濡れている。傘は差さない主義らしい。
六月のある朝、僕が思わず見たまま口にした。「花、日に日に色変わりますね」
男はフッと笑った。
「私も変わると思ってるんだけどね。
キミはアナベルみたいだ」
何が、と聞く前に電車の時間が来た。
ネズミだった僕がアナベルみたいか……。
翌朝もいた。次も、その次も。
彼の傘はいつもない。話しかけると、昨日の続きみたいに「今日は青が強い」「昨日より元気そうだね」と言ってくれる。
彼は紫陽花みたいな人だ。色が読めない、だけど見ていたくなる。
ある朝、彼がいなかった。翌日も。
三日後、紫陽花の根元に傘が落ちていた。柄に「律」とだけ書いてあった。
僕はその傘を拾い、差した。
少しだけ、重かった。
「で、傘を持って帰っちゃった。
タツジュン、どうしよう」
タツジュンはチラッと僕と傘を見て、味噌汁をかき混ぜた。
「……その男、成仏できてねぇかもな」
窓からほんのりと雨の匂いがした。
