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小説: ペトリコールの共鳴 ㉕

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第二十五話 喧騒はまだ終わらない ④


 ハムスターのキンクマはリンゴを咀嚼しながら、
「愛羅って、今、何を考えてると思う?」
被害者であり、ユミナのDMで憎しみが再燃した俺に尋ねることかよ。

「さあ、自己保身で無罪か減刑になる戦略を立てているんじゃないか」

「そっか。それだけかな」「それだけとは?」

「愛羅はまだ被告人で有罪と確定してない。
誰かの命令だったかもしれないし、これからの裁判で明らかになるとニュースに書いてあった。
愛羅のことだよ。自分だけが悪いんじゃないと思っていそうで」

「だから?」

「愛羅は小さい頃から嘘をついて、見栄を張る。
本当のことを言っても誰も信じてくれないし、
人に知られたくないことがあるとかさ。
見栄を張らなきゃ褒めてくれなかったからでしょ。
そうして自分の理想の自分が『自分』になる」

「それで?」

「愛羅の性格からいって、犯人や主犯と断定するのは簡単なことだよ。
でも、事件の本質を見ようとするなら愛羅のことも
公正で公平に考えないと事件の真相には辿り着かないと思うんだ」

「それから?」

「僕ね、ネットのコメントを読んでいて思うのが、
こういう犯罪があったら、
ナントカ障害って決めつけして個人を叩くでしょ?
そうして、ナントカ障害に該当する人まで巻き込まれて叩かれたりするじゃん。
なにが言いたいかっていうと、偏見や差別を生むだけで真実が見つけられないよ」

「キンクマ〜。俺は嘘つきでマウント取ってくるヤツと友達になりたくないよ」

「そういう話じゃなくて、人間はバカの一つ覚えのように多様性とか言ってるけど、
多様性を認めないから嘘つきが誕生するし、見栄っ張りが出てくるんだよ」

「うん、それで?」

「タツジュンやユミナの被害者から見ると、愛羅が犯人だから、ささっと認めて罪を償えだと思う。
でも愛羅の立場から見ると、自分はこれまで嘘つきで見栄っ張りだから、自分が何を言っても信用されない。
 根底に愛羅が社会的信用の低さを自覚していたら、気持ちの焦りや不安に取り囲まれている可能性があるし、裁判に向けて、自分の立場を有利に展開するため、真相が出てきやしない」

「キンクマ、落ち着こう」「僕は落ち着いてる」

「タツジュン、なんかね。
真相解明に向けて、冷静で公正な目を、
裁判もそして第三者も被害者も持たなければ
愛羅は自分の性格や行いから信頼度の低さを見積り
自分の無実や減刑を証明しようと必死になっていると思う。
 そうしたら、タツジュンやユミナ、被害者へ愛羅は寄り添う気持ちが芽生えないし、謝罪もない反省なんか一生しないと思うよ」

 キンクマはむせて咳払いをし、
「ユミナみたいに心に傷を負う人へも寄り添うのは大事だよ。
でもさ、愛羅へも寄り添わないと被害者が望む結果は得られないと思うんだ。
そして第二、第三の愛羅を作らないためにも
偏見や差別がなくなれば
嘘も減るだろうし、見栄を張ることだって減る」

 俺はキンクマの熱弁を聞きながら、結局、愛羅から何をされたいのか、謝罪なのか早く刑務所に入ってほしいのか考えてしまった。