ネット限定の陽キャたち
おしゃれカフェのテーブルで、会社の先輩ノリちゃんと紅茶を啜っていたときのこと。
時代はiPhone3や4が出回っていた。
視界に入ったのは、会社を辞めた女子と、そのお母様だった。うちらには気づいていない様子でふたり並んでテーブルに腰を下ろす。
彼女は会社では特別目立つタイプではなかった。
地味で、髪はぼさっとしていて、服もどこかだらしなくて、もう少し身なりに気を遣えばいいのにと思っていた。
でもその日、その女子は別人だった。
「これも、あれも、早く持ってきて」聞こえてくる。居酒屋じゃないのに……。
10種類以上のデザートを次々と注文し、テーブルの上はあっという間にお菓子の山になった。
彼女はスマホを構え、お母様を助手のようにこき使い、怒鳴りながら撮影を始めた。
「もっと向こうに置いて。
影が入ってる。何で分からないの⁈」
周囲の視線をものともせず、なりふり構わず撮影に没頭する彼女。
わたしたちは思わず目を合わせて、息を殺しながら笑いをこらえた。他のお客さんたちも、ちらちらと振り返り、若い子は口を塞いで笑っていた。
撮影が終わると、彼女はスマホを覗き込み何度も何度も確認していた。
そしてそのまま、デザートにはほとんど手をつけず、カフェを後にした。
わたしとノリちゃんは、顔を見合わせて
「どういうこと?」と小声でつぶやく。
でも、なんだか批判する気にはなれなかった。
ただ、なんとも言えない妙な気持ちが残ったのを覚えている。
SNSで見せる「私」は、どこまで本当の自分なのだろう。
映える一枚を撮るために怒鳴り声を上げ、お母様をこき使い、食べ物を残しても、画面の向こうの「私」は、きっとキラキラと輝いて見えるのだろう。
そして、そのキラキラが、誰かの羨望や憧れを引き出し、また誰かが、同じようにSNS限定の陽キャを演じていくのだろう。
けれどあの光景は、記憶の中で少し苦い後味とともに残っている。
お皿の上に残された甘い香りと一緒に。
