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小説: ペトリコールの共鳴 ㉟

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第三十五話 ペトリコールの共鳴 ④


「ここは遥香へプロポーズした場所なんだ。
遥香と俺は友達か恋人か微妙な関係で、でも俺は遥香が好きだった。
俺が命を賭けて守ってもいいって思えた人が遥香なんだ」

 潮風に当たり食べる飯は美味い。囚われるものがない。こんな開放的な気分はどれぐらい振りかな。

「遥香が言ってた楽園って、この海だったんだね」
「遥香から聞いてたの?」「うん」

 俺はまた笑いが出た。
なぜだか分からないが、遥香は本当に楽園だと思っていてくれたことが嬉しい。

「ここへキンクマを連れて来たかったんだ。
遥香と俺が始まった場所だからさ」

「タツジュンと遥香が始まったから、僕の幸せも始まったんだね」
「幸せだと思ってるのか?」

「うん。
僕の話をするとね、ペットショップにいた頃は、
ひとりぼっちだったんだ。
ジャンガリアンハムスターやゴールデンハムスターは親や兄弟達とひっついて話をしたり、眠ったり。
僕は僕の記憶がないときにひとりでペットショップに引き取られて、誰とも話をせず毎日過ごして。
周りのハムスターやウサギ、鳥はどんどん人間に飼われていく。僕はいつなんだろうなぁって」

「寂しい子だったんだ」
「そうだよ。だからね、今は幸せ」

「キンクマは俺に巻き込まれて嫌な思いをしたよ」
「うん、でもタツジュンとなら」

「…なら?」

「僕ね、遥香と約束したんだ。
タツジュンには僕がいるからって、僕がいるから大丈夫だって」

「そっか……。キンクマ、どうだ?
初めて旅に出て、外食した気分は」

「めちゃくちゃ最高の気分よ。海ってネットでしか知らないでしょう。本物の海に来たら、海には匂いがあって、波は不定期で迫ってきて。砂浜は柔らかいことや温かいのも知ったよ。
海の音はちゃぷん、ちゃぷん。楽器の音はしてないとかね」

「面白い視点で海を語るんだな、感受性が強い」
「感受性か……」

「タツジュン、また旅しよう!
今日は雑木林に行ったから、本物の山に行ってみたい」キンクマのまん丸の目が潤んでいる。

「ハンバーガーやポテトの感想は?」
「美味しすぎる!シャキシャキのレタスにとろんとしたチーズがパンに合って美味しい。
ポテトも丁度いい硬さで美味しいな」

「そうか、美味しいか」「うん!」

「あっ、キンクマ!
ほら、ハッピーセットのおまけ。
キンクマが食べたハンバーガーはハッピーセットじゃ食べられないんだ。今日は特別にキンクマへ」

「ありがとう! 
すげ〜!おまけも欲しかったんだ」
キンクマは早速おもちゃを取り出して遊んでいる。
「人間の子ども用なのに精巧にできてるね」
模型の人形をしげしげと眺めては動かす。

 こうやって俺は、キンクマと話が弾んだ。
キンクマはキンクマなりにネットで情報収集しているので、話題が事欠かない。
 会話は俺に趣味を持て。料理がいいとまで会話が至った。これだけ俺は自然体になれて、でもキンクマは俺を受け止める。

「海へ来て良かったか?」
「うん!また来ようね!」