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著…森鷗外 絵…今井キラ『杯』

 清らかな水がこんこんと湧く泉。

 その泉をめぐる木々の梢も美しい。

 輝くような夏の朝、この小説は始まります。


 ⭐️単行本版


 ※注意
 以下の文は、結末まで明かすネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。



 まるで淡い色彩の風景画のように爽やかなその場所に、七人の黒髪の少女たちが歩いてきます。

 少女たちはみんな可憐。

 しかも、まるで小鳥たちが囀るかのように楽しげ。

 みんな、お揃いの大きな銀杯を持って、かわるがわるに泉の水を汲み、こくこくと飲み始めます。

 その時。

 七人の少女たちの背後に、八人目の少女が立ちました。

 金髪と青い瞳を持つそのその八人目の少女は、黒ずんだ小さな杯を持っていました。

 それを見た七人の少女たちは、くちぐちにこう言い始めます。

「お前さんも飲むの」
「お前さんの杯は妙な杯ね。一寸拝見」
「また、変にくすんだ色だこと」
「馬鹿に小さいのね」
「墓の中から掘り出したようだわ」
「こんな物じゃあ飲まれはしないわ」
「あたいのを借そうかしら」

(著…森鷗外 絵…今井キラ『杯』単行本版P34、36から引用)


 意地悪だったり、あわれんだり。

 反応は様々ですが、とにかく言いたい放題です。

 八人目の少女は、それをジッと黙って聴いていたのですが、七人の少女たちの一人が大きな銀杯を差し出してきた時、ついに唇を開いて、


 「わたくしの杯は大きくはございません。それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」

(著…森鷗外 絵…今井キラ『杯』単行本版P38から引用)


 と外国語でピシャリと言いました。

 言語は通じずとも、意味は伝わったのでしょう。

 七人の少女たちは大きな銀杯を引っ込めて、黒ずんだ小さな杯を八人目の少女に返しました。

 そして八人目の少女は、数滴の泉を汲んで、喉を潤したのでした。



 …というのがこの小説のあらすじです。

 八人目の少女が持っている杯は、七人の少女たちにとっては大きくもないし、美しくもないのかもしれません。

 しかし、きっと、八人目の少女にとっては、色も形も大きさも、ちょうど良いのでしょう。

 もしかしたら、何か特別な思い入れもあるのかもしれません。

 生き方は、みんなと同じでなければいけないわけではないのです。

 自分の生き方は自分で決める、そんな八人目の少女のことを、わたしは美しいと思いました。




 〈こういう方におすすめ〉
 美しい文体の小説をお探しの方。
 自分らしい生き方をする人に憧れて、自分もそんな風になりたいと思っている方。

 〈読書所要時間の目安〉
 30分〜1時間くらい。

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