著…森鷗外 絵…今井キラ『杯』
清らかな水がこんこんと湧く泉。
その泉をめぐる木々の梢も美しい。
輝くような夏の朝、この小説は始まります。
⭐️単行本版
※注意
以下の文は、結末まで明かすネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
まるで淡い色彩の風景画のように爽やかなその場所に、七人の黒髪の少女たちが歩いてきます。
少女たちはみんな可憐。
しかも、まるで小鳥たちが囀るかのように楽しげ。
みんな、お揃いの大きな銀杯を持って、かわるがわるに泉の水を汲み、こくこくと飲み始めます。
その時。
七人の少女たちの背後に、八人目の少女が立ちました。
金髪と青い瞳を持つそのその八人目の少女は、黒ずんだ小さな杯を持っていました。
それを見た七人の少女たちは、くちぐちにこう言い始めます。
「お前さんも飲むの」
「お前さんの杯は妙な杯ね。一寸拝見」
「また、変にくすんだ色だこと」
「馬鹿に小さいのね」
「墓の中から掘り出したようだわ」
「こんな物じゃあ飲まれはしないわ」
「あたいのを借そうかしら」
意地悪だったり、あわれんだり。
反応は様々ですが、とにかく言いたい放題です。
八人目の少女は、それをジッと黙って聴いていたのですが、七人の少女たちの一人が大きな銀杯を差し出してきた時、ついに唇を開いて、
「わたくしの杯は大きくはございません。それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」
と外国語でピシャリと言いました。
言語は通じずとも、意味は伝わったのでしょう。
七人の少女たちは大きな銀杯を引っ込めて、黒ずんだ小さな杯を八人目の少女に返しました。
そして八人目の少女は、数滴の泉を汲んで、喉を潤したのでした。
…というのがこの小説のあらすじです。
八人目の少女が持っている杯は、七人の少女たちにとっては大きくもないし、美しくもないのかもしれません。
しかし、きっと、八人目の少女にとっては、色も形も大きさも、ちょうど良いのでしょう。
もしかしたら、何か特別な思い入れもあるのかもしれません。
生き方は、みんなと同じでなければいけないわけではないのです。
自分の生き方は自分で決める、そんな八人目の少女のことを、わたしは美しいと思いました。
〈こういう方におすすめ〉
美しい文体の小説をお探しの方。
自分らしい生き方をする人に憧れて、自分もそんな風になりたいと思っている方。
〈読書所要時間の目安〉
30分〜1時間くらい。
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