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著…千足伸行『ミュシャ作品集 増補改訂版 パリから祖国モラヴィアへ』

 まだ無名だった若き日の作品から晩年の作品に至るまで、アルフォンス・ミュシャが描いた美しい世界を堪能させてくれる画集。

 大型本なので、細かいところもじっくり見つめることができ、思わずウットリ。

 まるで額縁のように描かれた草花や、パッと目を惹く華やかな美女たちの姿に憧れます。


 ⭐️大型本版



 ミュシャの経歴や作品の見どころを教えてくれる解説文も読み応えがあります。

 この本を読むと、まるで、自分がミュシャの美術展に足を運び、一つ一つの作品に見入っては解説文を読んでいるかのような、静かで贅沢な気分を味わえます。

 また、この本に、若い頃のミュシャに挿絵の仕事で糊口を凌いでいた時期があったことが載っていたので、わたしは大変驚きました。

 これほどまでに唯一無二の画風を確立した世界的に人気の画家であっても、下積み期間はあったのですね。

 しかも、はじめからこの画風に辿り着いていたわけではありません。

 きっと、それを知ったら、まだ売れずに燻っている現代の芸術家のたまごたちの励みになることでしょう。

 ミュシャにだって下積み期間があったのです。

 みんな、下積み期間があって当然なのです。

 また、この本によると、ミュシャはかつてリストラの対象になって失業し、文無しになったこともあったのだそう。

 しかし、とりあえず故郷に向かうという当てのない旅に出て、車窓からの眺めをデッサンし、たまたまある駅で降り、たまたま立ち寄った店でそれを見せたところ、それがきっかけで肖像画や劇場の緞帳の仕事を手掛けることになり、また、少年時代に覚えたバイオリンを披露して人気者となって、やがて後にパトロンとなる地方貴族のキューン=ベラッシ伯爵と出会うことになります。

 その後も数々の苦難を乗り越えていくことになるのですが…。

 もうダメだと思った先に素晴らしい出会いがあったり、昔学んだことが思いがけない場面で役に立ったりする、という気づきを与えてくれるエピソードですよね。

 偶然の出会いと言うべきか、必然の出会いと言うべきかは分からないけれど…、きっと無駄な経験なんて一つも無いのでしょうね。

 さて、わたしもこの記事の冒頭で書いた通り、ミュシャと言えば美女の絵というイメージがありますが、わたしがこの画集の中で最も見入った時間が長かったのは、P116掲載の『ポエジー(詩)』。

 この作品には、美女もいなければ、咲き誇る花々も登場しません。

 なのに、どうしようもなく心を揺さぶられました。

 なんて静謐で内省的な美…。

 しかし、誰かに「ミュシャの作品だ」と教えてもらわなければ、わたしはこれが誰の作品か言い当てることはできないでしょう。

 それくらい、ミュシャと聞いてパッとイメージする画風とは全く違いますが、この本には、他にもミュシャが様々な画風で描いた作品が登場します。

 しかも、ミュシャには彫刻家やジュエリーデザイナー等としての顔もあります。

 わたしはこの人物の底知れなさに、つくづく驚嘆させられました。

 …そのショッキングな最期にも。


 ミュシャはもともとユダヤ人のシンパとして知られていたが、これがナチスの知るところとなり、ゲシュタポ(ナチスの秘密警察)に拘束、尋問される最初の一人となった。後に解放されたが、80歳近いミュシャは心身ともに疲労困憊し、この年の7月14日に帰らぬ人となった。

(著…千足伸行『ミュシャ作品集 増補改訂版 パリから祖国モラヴィアへ』大型本版P158から引用)


 というのですから、本当に酷い!

 ミュシャもナチスの被害者の一人だったのですね…。



 〈こういう方におすすめ〉
 目の保養をしたい方。
 芸術家を志している方。

 〈読書所要時間の目安〉
 4時間半〜5時間くらい。

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