3時のおやつ“おこじゅう”をどうぞ(東京都)|諸国名産お国言葉採集
全国各地の名産品のネーミングから“お国言葉”を“採集”。ピックアップした方言を糸口として、方言学を専門とする東京女子大学の篠崎晃一名誉教授が綴る、軽妙で含蓄に富むエッセイです。「全国各地の逸品×方言」をめぐる、遥かなる旅へといざないます。(ひととき2026年5月号の連載「諸国名産お国言葉採集」より)
【おこじゅう】(3時の)おやつ
東京・あきる野市の銘菓「おこじゅう」(お茶ぞっぺの中島屋)。北海道産の小豆あんを柔らかな生地で包んだ上品な焼き菓子だ。説明書きには「『おこじゅう』とはこの地方の古い言葉で三時のおやつの事を言います」と記されている。

この「おこじゅう」の由来は「昼食と夕食との間に食べる軽い食事」を意味する「こじゅうはん(小昼飯)」。この「小 (こ)」は「小腹がすいた」「小耳にはさむ」などと言う時の「小」で、「ちょっと、少し」の意味を添える。ただ、農家などで昼食の後、夜まで続く農作業を支えるエネルギ―補給のようなもので、そこそこの食べ応えはあったのかもしれない。デスクワークの合間につまむ菓子類とはわけが違うようだ。
「こじゅうはん」は江戸時代の方言集『物類称呼』にも「東国の方言」として載録されており、今でも関東を中心に東北や中部の方言として残る。
東京・多摩地域ではその省略形に丁寧の意を添える「御」が付いたわけだ。
東京・八王子の複合施設「Water Hill Garden」内のカフェ「Au coju」。フランス語風の店名の裏に潜んでいるのは実はこの「おこじゅう」。仕事の合間、一服してお茶やおやつを取る時間を楽しんで欲しいとのメッセージが込められているそうだ。
また、江戸時代には「こびる(小昼)」という言い方も使われており、「(お)こびり、(お)こびれ」などの形で各地の方言に残る。青森・南部地方では、南部せんべいに赤飯を挟むおにぎりのような郷土料理を「こびりっこ」と呼んだり、長野市松代町では、かりんとう饅頭「大名のおこびれ」(蔦屋本店)が販売されていたり、名付けにも人気だ。
ところで、奈良市内に店を構える「ほうせき箱」。ジュエリーショップと思いきや、なんとかき氷専門店。実は奈良の古い方言「ほうせき」「ほせき」はおやつを指すのである。饅頭や団子はともかく、キラキラ輝く氷と色とりどりのシロップとの組み合わせはまさに“宝石”のイメージにぴったりだ。昔は甘い菓子類が貴重で贅沢品だったことに由来するとの説もある。
しばしば何百年も未解決の数学上の難問が話題になるが、子供の頃からの個人的な未解決の難問は「遠足のおやつにバナナが含まれるか否か」なのである。
文=篠崎晃一
写真=阿部吉泰

お茶ぞっぺの中島屋
☎042-558-0277
[所]東京都あきる野市二宮1261
[営]8時30分~19時
[休]木曜
[HP]https://teazoppe3.wixsite.com/nakajimaya
*隔月で公開しています
出典:ひととき2026年5月号
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