おちょきんしねまっ!(福井県)|諸国名産お国言葉採集
全国各地の名産品のネーミングから“お国言葉”を“採集”。ピックアップした方言を糸口として、方言学を専門とする東京女子大学の篠崎晃一教授が綴る、軽妙で含蓄に富むエッセイです。「全国各地の逸品×方言」をめぐる、遥かなる旅へといざないます。(ひととき2026年3月号の連載「諸国名産お国言葉採集」より)
【おちょきん】正座
福井の銘菓「おちょ金時」(現在は「涛花堂」で販売)。福井県菓子工業組合青年部会と福井市菓子組合連合会が共同で開発した県の特産品を使った和菓子だ。きちんと座ること、いわゆる「正座」を意味する「おちょきん」とサツマイモ「金時」の語呂合わせによって名付けられた。生地には福井県が生産量日本一を誇る六条大麦、餡にはあわら市の富津地区で栽培されるサツマイモ「とみつ金時」を使用した上品な甘さが人気で、名付けには「みんなで座ってお菓子を食べる時間になりました」との意味が込められているという。食べ方には特にかしこまって正座して食べなければならないとの作法はない。


この「おちょきん」の語源だが、「おちん」と言う例もあることから、江戸時代後期から使用例が見られる「ちんと」にさかのぼる。滑稽本などではきちんと整っているさまを表すが、当時の江戸語と大坂ことばを対照させた『浪花聞書』の「ちんと」の項には「江戸で云ちゃんと」と記されており大坂の方言と意識されていたようだ。「ちんと座る」ことが正座の姿勢につながったわけだ。小さな子供に向かって座るように促す時に「おすわりしなさい」と言うのと同様に、日常生活の場で「おちょきん」は幼児語として使われることが多いという。
ちなみに福井で胡坐をかくことは「じょろかく」と言う。これは丈六*の仏像の座り方に由来している。
*一丈六尺(約4.85メートル)のこと。仏像の基準とされる高さ
なお、長野で「正座」は「おつくべ」。鎌倉時代にしゃがむ動作を表した古語「つくばう」に由来する。沖縄では「ひざまづき」。膝を折って座る姿勢に着目した言い方だ。
ところで、沖縄で「正座」と言うと膝を折るのではなく座ったまま姿勢を正すことを表す。足がしびれずに済むのである。学校で授業を開始する際は「正座! 礼!」と号令をかけるが、起立せずに座ったまま姿勢を正して礼をすることになる。
先日、福井県内の土産店で見かけたTシャツのプリント「おちょきんしねまっ!」。「しねま」とはいささか物騒だが、福井では「~しなさいよ」と柔らかく命令しているのである。
無駄遣いせずお金を大事に貯めなさいとの金言と誤解して購入する諸氏もいるかもしれない。
文=篠崎晃一
写真=阿部吉泰

涛花堂
☎0776-82-1332
[所]福井県坂井市三国町南本町1-1-48
[時]8時~18時
[休]火曜、月曜不定休
*隔月で公開しています
出典:ひととき2026年3月号
▼連載バックナンバーを見る
いいなと思ったら応援しよう!
最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、ウェブマガジン「ほんのひととき」の運営のために大切に使わせていただきます。