あんじょう(滋賀県)|諸国名産お国言葉採集
【あんじょう】具合よく、うまく、ていねいに
滋賀・大津の和菓子専門店「茶菓 山川」。自家栽培の小豆にこだわった和菓子はどれも人気だが個人的なお気に入りはチーズ風味のクッキーに餡をのせて食べる「餡上〈あんじょう〉」。実はこの「あんじょう」、「うまい具合に、ていねいに」の意味に当たる関西の方言だ。

餡上
こだわりの餡は、自家栽培の高島大納言小豆を使用。琵琶湖をかたどったチーズ風味のクッキーに、お好みで餡をのせていただく。クッキー10枚と小豆餡の小瓶2つ入りをセットで受注販売*。贈り物にも最適
*発送には7〜10日を要する
語源は江戸時代の滑稽本などにも使用例が見られる「味良く」。「面白くなる」が「おもしろうなる」、「暑くなる」が「あつうなる」などのような音便化と呼ばれる現象によって、「あじよく→あじよう→あんじょー」と変化して生まれた言葉だ。商品の説明には「味よく炊いた餡を生地の上で頂く風情に重ね言葉遊びをしてみました」とあり、味は言うまでもなく名づけのセンスも光る。

元々味覚を示す言葉が物事の状態や行為の表現へと意味を広げた例は少なくない。例えば「からい」は「わさびが効きすぎてからい/先生の評価がからい」、「あまい」は「砂糖を入れすぎてあまい/親のしつけがあまい」などなど。「うまい」に至っては奈良時代の『万葉集』や『日本書紀』の中ですでに両者の用法が見られるのである。
この「あんじょう」は京都・大阪を中心に関西地方の日常会話にしばしば登場する。NHK連続テレビ小説(朝ドラ)でも、関西を舞台にした作品では「あんじょう頼みまっせ」「あんじょうよろしゅう」(よろしくお願いします)といった言い回しが時折画面から流れてくる。
また、京都育ちのジュリーこと沢田研二も「あんじょうやりや」というタイトルのシングル曲をリリースしている。彼女に愛想をつかされ、「(ひとりでも)あんじょうやりや」と別れ話を持ち出された男が「(ふたりして)あんじょうやろう」と懇願する。何とも切ないやり取りが心に響く。それにしても、あこがれのジュリーに「うまいことやってな!」と頼まれたら壁ぎわに寝がえりうって「勝手にしやがれ!」と放置するわけにはいかない。「しっかりやります!」と背筋を伸ばして応えることになりそうだ。
ちなみに、関西でも兵庫・播磨地方では「ちゃんとしなさい」と注意する時に「がいようせんかいやー」と言う。「具合よく」から変化した類似の用法だ。
とにかく、このコラムを通して方言の魅力を味わい、周りにも”あんじょう伝えてや”。
文=篠崎晃一
写真=阿部吉泰
写真提供=茶菓 山川(店舗外観写真)
茶菓 山川
☎077-527-0088
[所]滋賀県大津市長等2-10-5
[時]10時~18時
*イートインは10時30分〜17時30分(LO17時)
[休]月〜水曜、第1・3・5日曜(臨時休業あり、詳しくは下記HP参照)
https://saka-yamakawa.net/
篠崎晃一(しのざき・こういち)
『例解新国語辞典』(三省堂)編修代表。「出身地鑑定 方言チャート」作成指導者。1957年、千葉県生まれ。東京女子大学教授。専門は方言学、社会言語学。著書に『それいけ! 方言探偵団』(平凡社新書)など。『例解新国語辞典』(三省堂)編修代表。
出典:ひととき2025年6月号
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