釣り人の魚は、話すたびに少し大きくなる。
釣り人には、不思議な能力がある。
釣った魚のサイズを、記憶の中で少しずつ育てる能力だ。
釣った直後は、わりと冷静である。
「30cmくらいかな」
この時点では、まだ真実に近い。
ところが、帰りの車の中で少し変化が起きる。
「いや、あれ35cmはあったな」
家に着く頃には、さらに成長している。
「メジャー当ててないけど、40近かったかもしれない」
魚はクーラーボックスの中では大きくならない。
でも釣り人の頭の中では、なぜか成長する。
しかも成長速度が異常に早い。
普通の魚なら数年かけて大きくなるところを、釣り人の記憶の中では一晩で5cm伸びる。
すごい生命力である。
さらに厄介なのが写真だ。
写真で見ると、どう見ても普通サイズ。
でも釣り人は言う。
「写真だと小さく見えるんだよ」
出た(笑)
釣り人界の最強ワード。
写真だと小さく見える。
角度が悪い。
持ち方を失敗した。
もっと前に出して撮ればよかった。
実物はもっと太かった。
引きはサイズ以上だった。
だんだん魚の話なのか、言い訳の品評会なのか分からなくなってくる。
そして最終的には、
「まあ、実質ランカーみたいなもんだな」
という謎の結論にたどり着く。
実質ランカー。
便利な言葉である。
サイズが足りなくても、気持ちが乗っていればランカーになれるらしい。
ただ、正直ちょっと分かる。
釣った本人にとって、その魚はただの1匹ではない。
寒い中投げ続けた1匹。
根掛かりに怯えながら巻いてきた1匹。
何も釣れない空気を救ってくれた1匹。
だから、少し大きく語りたくなる。
いや、少しではないかもしれない。
まあまあ盛る。
でもそれも含めて、釣り人の楽しみなのだと思う。
魚のサイズはメジャーで測れる。
でも、その日の嬉しさまでは測れない。
だから今日も釣り人は語る。
「いやー、あれは惜しかった。あと少しで大物だった」
ちなみに実際は、25cmである。
