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【全11話/SFレトロ小説】『レトロゲーム☆タイムトラベラー』第2面:スパルタンX

2、スパルタンX


2-1:非現実的な出来事の方が魅力的に見えるものだ


 プロデューサーからの要望に応え、おれは『ワンダーボーイ&オーディナリーガール』の第14話に、主人公トラオの兄シシロウを登場させた。
 
 登場シーンを掻い摘んで説明すると……
 
 小学生の頃に遊んでいたテレビゲームをみつけたトラオが、懐かしがりながら一人で遊んでいると、そこへ兄のシシロウがやってきて、二人でゲームを始める。
 兄は常に しかめっ面の気難しい人なのだが、トラオはゲームを通して、兄が昔から弟想いで優しい人だったことを思い出す。
 
 この兄登場シーンを、プロデューサーはえらく気に入ってくれた。
 
『小野寺さん! いや、小野寺先生! 完璧ですよ、さすがです! 二人の関係性だけでなく、兄の本当の性格まで見せるなんて! 昔一緒に遊んでいたゲームを導入として持ってくるってところが、とくにいいよ! あれ、どうやって思い付いたの?』

「いやぁ、たまたまですよ~。たまたま思い付いただけで~」
 
 おれは笑って答えた。
 
「実はあれ、ファミコンをやろうとしてたら眠っちゃって、そのときに見た夢がベースになってるんですよ~」
 
 とは、言わないでおくことにした。
 
 夢で見た話ほど、くだらなくて面白くない話はない。
 だから言わなかったわけだが、実はもう一つ、言わなかった理由があった。
 
 それは、あの日以来、うっすらと思い続けていることだった。
 
『もしかして、夢ではなかったんじゃないか?』
 
 そんな思いが、頭の片隅で消えずに右往左往し続けていた。
 
 100%夢に決まっている。
 そんなのはわかっている。
 
 でも、夢ではなかったんじゃないかと思ってしまうほどに、兄や母と交わした言葉はリアルで、生々しかった。
 
 仮に夢ではなかったとしたら、なんだったのか?
 
 思い付くことは、ただ一つ。
 
『タイムトラベル』
 
 ファミコンの電源を入れた瞬間に、おれはファミコンで遊んでいた過去へとタイムトラベルし、当時の兄や母と実際に会って話してきたのだ。
 そう考えれば、すべての辻褄が合って――
 
「ぷっ! あはははははは!」
 
 おれは思わず笑ってしまった。
 
 タイムトラベルだなんて、あるわけがない!
 ましてや、ファミコンの電源がスイッチになってるだなんて!
 そんなこと、あるわけがない!
 
「あははははは!
 ただの夢をタイムトラベルだなんて考えてしまうとは! 長年アニメの脚本に関わってきた影響せいだ。職業病だな、これも」
 
 と、笑っている一方で……
 
『でも……。
 本当だったら?
 もしも本当だったら、どうする?』
 
 心の中には、そう言い続けている自分もいた。
 そんなわけないだろと笑いながらも、どうしてそう言い切れるんだ? と疑問を投げかけ続けている自分がいた。
 
「あーもう! わかった、わかった!
 それじゃあ、試してみようじゃないか。それで蹴りがつく!」
 
 おれは心の中の自分に言いながら、ブラウン管テレビの電源をつけた。
 ファミコンの本体に、スーパーマリオブラザーズのカセットを差し込む。
 そして、ゆっくり、慎重に、電源を入れた。
 
 14インチのブラウン管テレビに、『SUPER MARIO BROS.』の文字が映し出された。
 年月が経っている分、テレビの映りが悪い。
 画面の四隅が色褪せているし、上下がチカチカしてブレている。スピーカーの問題なのか、微かにジジ、ジジジというノイズが聞こえる。
 
 辺りを見渡した。
 そこは1DK独身貴族の夢の部屋だった。
 
「ほらな。やっぱりあれは夢だったんだ。
 そりゃそうだろ。タイムトラベルなんて、実際にあるわけがないんだから。ましてや、ファミコンの電源がスイッチだなんて。小学生向けのSF漫画だとしても ちゃちすぎるわ」
 
 そう思いながらも、しっかりガッカリしている自分もいた。
 案外本気で、タイムトラベルを期待していたらしい。
 
 そんな自分を鼻で笑いながら、おれはコントローラーのスタートボタンを押した。
 
 ゲームが始まってすぐに、コントローラーのボタンが異常に硬いことに気付いた。
 十字キーを押し続けるには力が必要で、数分で左手の親指が痛くなりそうだ。
 ABボタンも同様に硬く、押すにはグッと力を入れる必要があった。
 
 30年以上使っていなかったわけだし、そりゃ硬くもなるか。
 これって、掃除をしたり、油を注したりしたら、柔らかくなるのだろうか?
 いや、待てよ。
 もしかしたら、ファミコンのコントローラーって、もともとこの硬さだったのかもしれない。
 だとしたら、掃除も油も意味がないのかも……。
 
 など思いながらコントローラーを見ていたら、『テレッテ、テレッテレ、テーレ』という音が聞こえてきた。
 マリオはクリボーにやられてしまっていた。
 
「あ……まぁ、いっか。マリオは こないだやったし、別のゲームをやろう。
 あ。そっか。あれは夢だったわけだから、やったうちには入らないか。
 いや、もしかしたら、夢を見ながら実際にプレイしていたのかも……って、さすがにそれはないか」
 
 おれは電源を切り、スーパーマリオブラザーズを本体から抜いた。
 さて、どれをやろうか。
 そう思って、カセットの入っている箱を見たとき、白い紙が目についた。
 
「あ。忘れてた」
 
 二つ折りにされた紙を手に取って開くと、そこには子どもの拙い文字で、こう書かれていた。
 
『どの選択肢を選んだとしても、正解』
 
 どういう意味なんだろう?
 なんで、この言葉を書いたんだろう?
 
 おれが書いたと決まったわけではないし、そもそも書いた記憶もないけど、でもなぜか、とても大事な気がした。
 気のせいかもしれないけど。
 
 おれは、その紙をまた二つ折りにして、カセットの箱に戻した。
 そのとき、目に飛び込んできたカセットがあった。
 紫色をした、唯一のカセット。
 三十数年ぶりに手に取ったそのカセットは、『スパルタンX』であった。

☆★カセット補足情報のコーナー★☆

絵柄がポップで可愛い!
紫色を選択したセンスもお見事すぎる!

『スパルタンX』は、1985年(昭和60年)6月21日に任天堂から発売された、アクションゲームだ。
我らがヒーロー、ジャッキー・チェン主演の同名映画が元となっているが、主人公とヒロインの名前以外に共通要素はない。
敵を倒して塔を登っていき、最上階である5階にいるボスを倒して、ヒロインを助け出すというストーリーである。
当時は、ジャッキーの人気が爆発的だったこともあり、このゲームをプレイするだけでなく、公園などで『スパルタンXゴッコ』をして遊んだ少年たちも多かったはず。
まさに、カンフーブームの一端を担っていたと言っても過言ではないゲームなのだ!
 
☆★カセット補足情報のコーナー おわり★☆
 
 
 あまりの懐かしさに、しばらくの間、カセットの絵をじっくりと見てしまった。
 これを肴にして、レモンサワーを3杯はいけそうだ。
 
「当時はそんなにゲームが上手じゃなかったから、結局一度もクリアすることができなかったんだよなぁ、たった5面しかないのに。大人になった今なら、クリアできるかも。よし! 大人の本気をみせてやるっ!」
 
 三十数年ぶりのリベンジを心に誓いながら、おれはカセットを差し込み、電源を入れた。
 

                     

2-2:子どもの頃にゴッコ遊びが好きだった人ほど嘘が上手


「こっちゃん! 今日こそはクリアすっぞ!」
 
 目の前で、イガグリ頭の少年が叫んでいる。
 肌寒い季節にも関わらず半ズボンを履き続け、万年ボウズ頭のこの少年は……
 
「さるじゃん!」
 
 あまりの懐かしさに、思わず叫んでしまった。
 
 さる(本名さとる)は、不思議そうな顔で、こちらを見た。
 
「なんだよ、急に? それよりさ、センコーかコーコーか、ジャンケンできめよーぜ!」
 
 さるが、テレビを指さしながら言った。
 ブラウン管には、『SPARTAN X』のスタート画面が映し出されていた。

見よ!このシンプルなスタート画面を!
これでいいのだ!

 とても綺麗に映っていて、画面の端もブレていなかった。
 
 おれは、自分のほっぺをつねってみた。
 
「いてっ!」

「な、なにしてんだ、こっちゃん?」
 
 痛い……。
 でも、自分の夢の中で自分をつねっても、痛いって思うのかもしれない。
 ならば……。
 
 おれは手を伸ばし、さるのほっぺをつねった。
 
「いってぇー! なにすんだよっ!」
 
 本気で痛がっているようだ。
 それに、さるに触れた感触が本物のようだった。
 
 ということは、夢じゃない……のか?
 いや、夢の中で夢かもって疑うっていう夢なのかもしれない……。
 
 う~ん。
 いったいどうすれば、これが夢だと確かめられるんだ?
 
「おいっ! どういうつもりだよ! ケンカしてぇのか!」

「ご、ごめん。ちょっと確認したかっただけで」

「カクニンってなんだよ?
 いいか、次つねったら、明日の給食の牛乳もらうからな!」

「わかったわかった。
 それよりさ、先行は さるでいいから、はやくやろうぜ」

「よっしゃー!
 今日こそはぜってぇーにボスをたおして美女を助けてやんぜ!」
 
 さるは叫びながら、スタートボタンを押した。
 
 スパルタンXには、AとBという難易度があるのだが、あの頃の おれたち(小学3年生の8才)は、迷わずにA(イージーモード)を選んだ。
 
 懐かしいBGMと共に、主人公が画面上に現れた。
 BGMが切り替わると、敵が次から次へと出現した。
 
 さるは、画面上の主人公がパンチやキックを繰り出すたびに、「あちょー!」「ほわちゃー!」と叫んだ。
 
 そうそう、こいつはそういう奴だった。
 陽気で、元気で、ちょっと勉強はできないけど、優しくて、面白い奴。
 家が近所だったので、しょっちゅう一緒に遊んでいたっけ。
 
「よっしゃー! 1面クリア!
 へへっ。おれのジャッキーに勝てるヤツなんか、いねぇーのさ!」
 
 さるは、1面の棒を持ったボスを倒したところで立ち上がり、その場でカンフーのポーズをカッコよく決めた。
 気分はまさにジャッキー・チェン!
 
 が、しかし。
 ボスを倒したあとも、ゴールとなる階段を上がらない限り、ザコ敵が出続けることを、ぼくたちはすっかり忘れてしまっていた。
 
「あっ! さる、ヤバいぞ! ジャッキーが敵にからまれてるっ!!」
 
 ぼくは叫んだが、時すでに遅く、画面上の主人公はダメージを喰らい過ぎて、『がびーん』みたいな音と共に落ちていった。

やられると、ミスターXの笑い声が聞こえてくる。
当時、あの笑い声のマネをよくしたなぁ…

「ぎゃああああ! しまったぁぁぁぁぁ!」

「まったく、なにやってんだよ、情けねぇなぁ。
 しかたねぇ……さる、おまえに見せてやるよ。本物のカンフーってもんをなっ!」
 
 ぼくは、さるに代わってコントローラーを握った。
 
 十字キーやボタンを押してみると……硬い!
 ファミコンが古いわけではないし、そんなに汚れてもいないけど、ボタンは思っていた以上に硬かった。
 
 やっぱり、ファミコンのコントローラーは、もとからちょっと硬かったんだ。
 あの頃は、これが当たり前だったから気にしていなかったけど、プレステとかスウィッチがある時代からすると、やっぱり硬く感じてしま  
 
「おいっ、こっちゃん! なにボーッとしてんだよ!」
 
 さるの声で、ぼくは我に返った。
 画面上の主人公が、敵にピッタリくっつかれて、エネルギーがぐんぐん減っていた。
 
 そう、スパルタンXのザコ敵は、なぜかパンチやキックをせず、主人公にピッタリくっつくことで体力を奪い取るという、吸血鬼みたいな攻撃をしてくるのだ。
 
「やっ、やばっ!」
 
 ぼくは慌てて敵どもを殴り倒して、難を逃れた。
 
「ふぅ、あぶねかったぜ」
 
 余談だが、あの頃、「あぶねかった」という言い方が、ぼくらの周りでは流行っていた。
 あれは元ネタなどがあったのだろうか?
 まったく覚えていないなぁ……。
 
「もしかして、今のぼ~っとするのが、本物のカンフーなんですかねぇ~」
と、さるが挑発的な顔をしながら言ってきた。

「んなわけねぇだろ」

「だったら、はやく本物のカンフーとやらを見せてくださいよ~」

「言われなくても見せてやるよ。その節穴だらけの目ぇかっぽじって、よく見ておけ!」
 
 ぼくはコントローラーを握り直した。
 
 素早いパンチとキックで、迫り来る敵を瞬殺していく。
 さらに、敵が近づいてくるタイミングを見計らって、ジャンプ&キック!
 華麗なるジャンプキックで、襲い来る敵を蹴散らした!
 
「おお! こっちゃん、すげぇ!」

「ふっ。これが本物のカンフーさ!」
 
 続いて、ナイフ投げ男が現れた。
 
 素手で戦う男に対してナイフを使うとは! 卑怯すぎる!
 こんな卑怯で卑劣な男は、必殺ジャンプキックで成敗してやる!
 
 ぼくはナイフ男に駆け寄り、華麗にジャンプをして……ガビーン
 絶妙なタイミングでナイフを投げられてしまい、無残にも散ってしまった。
 
「おい! どこが本物のカンフーだよ! 1階のボスにさえ、たどり着けてねーじゃねーか!」

「す、すまねぇ……まだまだ修行が足らなかったようだ。
 てか、マジメにやんね? 本気でクリアしたいし」

「そーだな。本気で美女助けねーとな」
 
 それから ぼくとさるは、「あちょー!」と叫ぶのも、無駄な飛び蹴りを披露するのも封印して、真剣に敵と戦ったのだった。

2-3:小学生男子には、映画『ベスト・キッド(1984年版)』を義務教育の一環として観せるべし


 幾度目かの挑戦で、さるがようやく3面へとたどり着いた。
 
「よっしゃー! いい感じだぞ、おれのジャッキー! このまま一気に突き進むぞ!」

「あ、そうだ。ちなみになんだけど、あの主人公の名前、ジャッキーじゃないぞ」

「は? そんなわけないじゃん。どう見たって、ジャッキーじゃん」

「彼の名前はトーマス。で、捕まってる美女の名前は、シルビア」

「そーなの? 知らんかった~。てか、こっちゃんは、なんで知ってんの?」

「さっき書いてあったじゃん。2階の階段をあがったあとで、美女が捕まってる画面が出てきたときに」

初期のファミコンは英語ばかりだった。
今見ると簡単な英単語なのだが、
小学生には解読不可能だった…

「へ? あれ、英語だったじゃん。こっちゃん、英語読めんの?」

「そりゃあ、あれくらい読め……」
 
 あっ、しまった!
 今は46歳ではなく、8才の小学3年生だった!
 
「よ、読めるわけないじゃーん! こないだ、にいちゃんが読んでくれたんだ~」

「えー! こっちゃんのアニキ、英語読めんのかよ! すっげー!」
 
 ふう、なんとか切り抜けた……。
 未来から来たことがバレないようにするためにも、発言には気を付けねば……。

 
 その後  
 
 ぼくとさるは、何度もやられ、何度もゲームオーバーになりながらも、諦めずに戦い続けた。
 
 気がつけば、窓の外が夕焼け色に染まっていた。
 時間切れが迫る中、ぼくはついに、5階へとたどり着いた。
 
「こっちゃん……これが最後のチャンスだぞ」

「ああ、わかってる。必ず……いや、絶対に、シルビアを助けてみせるっ!」
 
 主人公のトーマスは、次から次へと迫り来るザコ共を蹴散らしながら、左へと進んでいった。

 ジャンプしてくる子どもの敵に驚かされたり、ナイフを投げてくる卑劣な敵に前後を挟まれたりと、いくつものピンチを乗り越えて、ついに……ついに、ラスボス・ミスターXのもとへたどり着いた!

見よ!こいつがミスターXだ!
当時は気付かなかったが、鼻が高い!

「で、でた! こいつがミスターXだ! お、おお、落ち着けよ、こっちゃん!」

「あ、ああ、わかってる。おれに任せときな!」
 
 とは言ったものの、エネルギーの残量は、あと半分しかなかった。
 ミスターXの力がどれほどなのかはわからないが、おそらく、攻撃を2発くらっただけで終わるだろう。
 かくなる上は……先手必勝あるのみっ!
 
 ぼくは、ボスの意表を突いて、トーマスにダッシュさせた。
 そして、驚くボスに向かって、渾身の必殺技『爆裂百裂キック(キックを連打してるだけ)』を喰らわせた!
 
 が、しかし!

「こ、こいつ! ガードしやがる!」

ガードするなんて聞いてない!
卑怯だぞ、ミスターX!

 そう、スパルタンXのラスボスであるミスターXには、こちらの攻撃を完璧にガードするという特性があるのだ!
 
「お、おれの爆裂百裂キックが効かないなんて……。こんな奴に、本当に勝てるのか……」

「こっちゃん、落ち着け! 落ち着けば必ず勝てる!」
 
 さるの励ましに、ぼくは静かに頷いた。
 そして、最後の大勝負に出ることにした  
 
 
   広々とした部屋の中、対峙するトーマスと、ミスターX。
 
 トーマスの顔には焦りの色が浮かんでおり、額には汗が滲んでいる。
 対して、ミスターXは涼し気な表情をしており、汗一つかいていない。
 
 トーマスは、手の甲で額の汗を拭うと、ミスターXに向かって一気に駆け出した!
 
トーマス「ホワチャーーーー!」

ミスターX「フッ。負けを悟って無謀な賭けに出たか。未熟な愚か者め。ご希望通り、あの世へ送ってやるとしよう!」
 
 ミスターXが強烈なパンチを放った瞬間、トーマスは天井に届くほどの大ジャンプをした!
 
ミスターX「なっ、なに!?」

トーマス「喰らえっ! トーマス流カンフー最終奥義! 空中殺法殺人キーック(ただのジャンプキック)!!」

見よ!これがトーマス流カンフー最終奥義空中殺法殺人キックだ!
(※注:そんな技名はありません!)

 トーマスが放った殺人キックは、ミスターXの顔面にクリーンヒットした!
 そしてミスターXは、奈落の底へと落ちていった  
 
 
   その瞬間、ぼくは歓喜の雄叫びをあげた!
 
「やったぁぁぁぁぁぁ! ついに勝ったぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 ぼくと さるは、立ち上がってハイタッチをし、そして二人そろって「アチョーッ!」と叫びながら、カンフーのポーズを決めた!
 今ここに、若きジャッキー・チェンが爆誕したのだ!
 
 そのとき。
 『がびーん』という音が聞こえてきた。
 見ると、ボスを倒したあとに現れたザコ敵に、トーマスがやられてしまっていた。
 すっかり忘れていた、ボスを倒したあとも、ゴールしない限りザコ敵が出現することを……。
 
 ぼくと さるは、画面に出ている『1-PLAYER GAME OVER』の文字を、ただただ茫然と見つめた……。

この画面を何度見たことか…
スタンプにして、誰かに送りつけたい。

「……おれ、そろそろ帰るわ」

「うん。そうだな。そこまで送るよ」
 
 ぼくはそう言いながら、ファミコンの電源を切った。
 
 
                     
 

2-4:夢の中だけでいいから、かめはめ波を撃ちたい


 目が覚めると、暗い部屋の中、砂嵐の音だけが聞こえていた。
 
 前回と同じだ。
 電源を切ったら、1DKの部屋に戻ってきた。
 
 夢だと思っていたけど、ほっぺをつねったとき、本当に痛かった。
 夢だとは思えないほどリアルに、さると会話をすることができたし、ハイタッチをすることもできた。
 
 もしかして……。
 もしかして、本当に、過去へ、戻っていた……?
 
 まさか、そんなわけがない!
 ファミコンで過去に戻るだなんて、聞いたこともない!
 
 あ。
 もしかしたら、この三十数年の間に、ファミコンの本体になんらかの特殊な装置が取り付けられ、それによってタイムトラベルできるようになったのかもしれない!
 誰がそんな装置を取り付けたのかは知らないけど。
 そもそも、誰がそんな装置を作ったのかは知らないけど。
 
 真相を確かめてみるべく、おれはファミコン本体へ手を伸ばした。
 
 が、しかし!
 
「いででででででっ!」
 
 首に電撃が走った。
 前回の引き続き、今回は寝違えて首の筋を痛めてしまった。
 
 あまりの激痛に、おれは一時停止したかの如く、まったく動けなくなってしまった。
 石像のように固まったまま、おれはぼんやりと砂嵐の流れるブラウン管テレビを見ていた。
 
 もしも本当にタイムトラベルができるのなら、また母に会えるかもしれない。
 
 おれはそのとき、ぼんやりと、そんなことを思っていた  
 

◇◆登場人物紹介◆◇

●小3のぼく
・学校では、「こっちゃん」と呼ばれていた。
・授業中は、教科書にパラパラ漫画を描くことに熱中していた。
・相変わらず学校でトイレ(大)に行くことができなかった。しかし、我慢強さがレベルアップし、漏らすことはなくなった。
・学校でトイレ(大)に行けない子は多いと思う。原因は、うんこをしたことをからかってくるクソガキがいるからだ。時代が変わってもこういうクソガキが消えることはないので、トイレをすべて完全個室にするか、学校で徹底的にうんこ教育をするか、対策を講じるべきだ。
・学校でトイレ(大)に行けない子たちに知っておいてほしいのは、うんこをするのは恥ずかしいことじゃないってこと。むしろ、それをからかうことの方が恥ずかしいんだ。
 
●さる
・本名は さとる
・近所に住む同級生。
・万年半ズボンでボウズ頭という元気少年。
・勉強は苦手だが、運動は得意で足が速い。
・さるというあだ名は気に入っているのだが、サルのマネをしろとか、サルに似てるって言われると怒る。
・小3の頃、さるはまだファミコンを持っていなかった。
 「テストで100点を取ったら買ってあげる」という親と交わした約束を、さるが果たせずにいたからだった。
 のちに、「運動会で1等賞を取ったら買ってあげる」という条件に変更してもらうことで、無事に買ってもらうことができたのだった。

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