ときめきトゥーシューズ【毎週ショートショートnote】
見学させてください、と親方に頼んだ。俺は、釘打ちの途中で抜けてきた。
隅組手の墨付け。交差した角材に、3本の垂木材が、指で言えば人差し指中指薬指をばっと広げた状態で、キレイに組み合わさるように木材を欠き込む。その欠き込みのための印と線をつける墨付け。5年前なら線が乱れて交差しているだけに見えた。いまはわかる。座学と実際の模型作りを続けてきた。が、段取りは大工職人のスキル。俺はそれを盗みたい。
親方はなにも言わず、仕事を続けてくれた。年寄はツンデレが多い。背後から、目をかっぴらく。全て、焼き付けてやる。
作業台の前、楽にした第3ポジションから、右足をすくい上げる動作が堂にいっていた。体幹にブレなどあるわけがない。やはり、左足はドゥミ・ポワント。音で仕事をしてるつもりの若い職人のソテとは違う。垂木材にプラットフォームとソールを当てて、勾配を取るやトウシューズを裏目に使っての返し勾配を墨付けする。速い。トウシューズ術の基礎中の基礎、幾何学である「勾殳玄」が、頭の中で立体を作っている。材は当然、曲がり、反りがある。すべて違うのに。ピルエット。表目。プリエからルルヴェ。トウシューズに目がついているようだった。パッセ……アラベスク……。
墨付けが終わったとき、親方のボックスはひび割れていた。18枚のハゼを外している。
「おまえ、道具はあるのか」俺は履いていた、15枚ハゼのトウシューズを鳴らした。
親方は、こっちの足を見て睨んだ。
「使わねえのに、高いもん買ってんじゃねえ。……明日は安いの履いてこい」
俺は礼をして半べそを隠した。素直じゃない親方の、仕事がまぶたで再生していた。
(了)
文字数カウント 685+ルビ7(五体投地
=====蛇の足=====
「親方。ここ東照宮ですよね」
「ちげえよ」
「……ときどきなったりしません?」
「しねえよ」
「……」
(幕)
