見出し画像

詩 はるかかなたの世界

 大海の近くの、切り立った崖の上にある小さな喫茶店で、コーヒーを飲んでいた。

自分の席の前にガラスの窓があり、そのガラスのきらめきの先には、遮るものが何もない海と空があり、そして、もくもくと高く膨張していく積乱雲と、真っ白に輝く太陽がある。

果てしなく広がる海と空は完全に平らに見え、積乱雲は太陽の光をたっぷりと吸い込んで、繊細な白い膨らみの筋をはっきりと浮き立たせている。

これらははるかかなたの世界であり、自分はただ黙々と、落ち着いた気持ちでこの席に座り、カランカランと清澄な音を立てるアイスコーヒーのグラスを少しずつ飲みながら、渋みがあって冷たいコーヒーを喉元に流し込んでいく。



 これが、自分にとっての人間の世界、そのものだった。

みんなが自分の周囲にいたとしても、人々はどこか遠いところにいたように思えた。

教室にみんながいても、彼らが自分とは無縁の存在に思えた。

街の中を歩いていても、人々との間に無限の距離感があるように思えた。

みんな、はるかかなたの世界の住人のように思えた。

人々は皆、海や空や、太陽の光を浴びる積乱雲のようなものだった。

夏のギラギラした光によって、それらは息づき、自分とは遠く離れた世界で、喜びの声を上げている。

その喜びは、確かに自分に伝わってくるものの、あまりにも遠いものだから、それは潮騒の残響のように聞こえてしまう。

人々はきっと、空の住人なのだ。

自分には空に飛び立つための翼がなく、この喫茶店でこの光景を静かに眺めながら、コーヒーを飲むしかない。

しかし、そんな生き方だって良いはずだ。

いいなと思ったら応援しよう!