美しいものと、気持ち悪いもののあいだ
—— R-Typeという発明
僕は、美しいものが好きだ。
整ったもの、カラフルなもの、秩序だったもの。
まあ、だいたいの人が好きだろうと思う。
ただ僕の場合、「人並み以上に好きだ」と自信をもって言えるくらいには好きだ。
ところが、困ったことにもう一つ好きなものがある。
気持ち悪いもの。
怖いもの見たさという本能
たとえば映画だ。
SAW を観るとき、僕はだいたいこう言っている。
(※脚注 映画SAWシリーズ)
「痛ててて……やだなあ……ああなったら絶対やだなあ……
これ、絶対助からないやつじゃん……やばっ
あーあ、ソウなるわな。うん、ソウだけに」
と言いながら、最後まで観る。
痛いのが苦手な人は、絶対見ないほうがいいよ。
ヘルレイザー のときは、こうだ。
(※脚注 映画ヘルレイザーシリーズ)
「あー、気持ち悪……あー、いやなやつ来る……来るぞ……
あー、痛てて、あんなことされたら、痛いよー。
で、あのルービックキューブみたいなの何なの?」
と言いながら、もう何回も観ている。
そして極めつけは、エイリアン。
(※脚注 映画エイリアン シリーズ)
この手の映画は絶対見ないうちの母親をして
「あ、腹食い破って、なんか出てきたで」
と言わしめた、幼体?出現シーン。
エイリアン2で、重装備で乗り込んだのに
取り囲まれる絶望感、
巣に取り込まれてしまった人のシーンとか。
普通なら一回で十分なはずなのに、
なぜか繰り返し見てしまう。
人間にはどうやら
「気持ち悪いものみたさ」
「怖いものみたさ」
という、よくわからない本能があるらしい。
心理学的にいえば、これは「嫌悪と好奇心の共存」みたいな話になるのだろう。
危険を学習するために、嫌悪刺激に注意を向けてしまうとかなんとか。
でも正直に言えば、僕の結論はもう少しシンプルだ。
たぶん、僕はドMなのだ。
ギーガーの世界
この「美と嫌悪の混合」という感覚を、
芸術のレベルで突き詰めた人がいる。
H. R. Giger。
(※脚注 ギーガー)
エイリアンのデザインでも有名なあの画家だ。
昔、 ギーガーカフェ に行ったことがある。
(今もあるのかな。)
店内は、
有機体のような
機械のような
骨格のような
子宮のような
なんとも説明しがたい構造物で満たされている。
そこで不思議な感覚に襲われた。
気持ち悪い。
なのに、
なんだか安心する。
深層心理をえぐられる感じというか、
羊水体験のような、
「この有機的な機械の中に取り込まれて眠りたい」みたいな気分になる。
……やっぱりドMなのかもしれない。
その感覚をゲームにした作品
この「美しさと気持ち悪さの混合」を、
僕が最初にゲームで体験したのはたぶんこれだ。
R-Type。
1987年、Iremのアーケードゲーム。
初めて見たときの感想はシンプルだった。
「なんだこれ。」
敵は
有機物っぽい
機械っぽい
生物兵器っぽい
妙な存在ばかり。
ステージ背景も、どこか生体内部のような構造で、
ギーガー的な世界観がむき出しである。
そしてプレイヤーは思う。
「うわ、気持ち悪……」
しかし次の瞬間、
「次はどんな気持ち悪さが出てくるんだろう」
と期待している。
完全に怖いもの見たさだ。
R-Typeが仕込んだゲームメカニクス
ただし、R-Typeがすごいのは世界観だけではない。
ゲームメカニクスにも、
後のシューティングゲームに大きな影響を与えた発明がある。
フォース
まずはあの謎のモジュール。
通称 フォース。
丸い、よくわからない物体で、
機体の前
機体の後ろ
どちらにも装着できる。
しかも無敵の盾になる。
これを前後につけ替えることで、
前方防御
後方防御
を戦術的に使い分ける。
つまり、R-Typeは
「位置を操作する武器」
という概念をシューティングに持ち込んだ。
ただ一つ疑問がある。
この無敵素材技術があるなら、
機体をこれで作ればよくない?
ということで僕の中ではこういう設定になっている。
これは
小説 「三体」(The Three-Body Problem)
(※脚注 小説「三体」)
に出てくる 水滴と同じ超物質なのだ。
どうやら、電磁気力より強い核力で結びついてて
地球上にはこれを破壊できるものはないのだ。
人類の理解を超えた物質。
だから機体には使えない。
……そういうことにしておこう。
溜め撃ち(波動砲)
もう一つの発明が 溜め撃ち。
ボタンを押し続けるとエネルギーをチャージし、
離すと強力な弾を発射する。
これは当時のシューティングゲームの常識を壊した。
それまでのセオリーは基本的に
「連射こそ正義」
だった。
ところがR-Typeはこう言う。
我慢しろ。
溜めろ。
そして放て。
シューティングに
リズムと
判断の間を持ち込んだのだ。
覚えゲーという設計思想
R-Typeは、かなり難しいゲームだ。
でも理不尽ではない。
敵は基本的に
同じパターンで出てくる。
つまりこれはいわゆる
覚えゲー
である。
何度も失敗する。
そして学習する。
「ここでフォースを後ろ」
「ここで溜め撃ち」
「ここはギリギリを抜ける」
そうやって、少しずつ攻略法を作っていく。
その結果、プレイヤーは思う。
「これは自分が上手くなったんだ」
実際には、ゲームデザイナーに誘導されているだけなのだが。
巨大戦艦というショック
そして忘れてはいけないのが、
巨大戦艦ステージ。
画面に入りきらないサイズの敵。
今では珍しくない演出だが、
当時は本当に衝撃だった。
ゲームセンターで初めて見たとき、
「え、これ……
全部敵なの?」
と本気で思った。
シューティングゲームのスケール感を
一段階引き上げた瞬間だった。
やったことがない人のために、
R-Typeのゲームメカニクスや魅力を伝える動画(英語解説)
https://www.youtube.com/watch?v=a2r6wqwn3mk
R-Typeという教科書
残念ながら、
Iremは
現在ゲーム事業から撤退している。
遊技機や映像産業にウェイトを移している。
でも僕は、学生がこの会社を受けると言うと
ついこう言ってしまう。
「アイレム様を受けるのにR-Typeを知らないとは
クリエイターの風上にも置けん」
もちろん冗談半分だが。
今ではインターネットに
全ステージの攻略法が載っている。
でも、本当に学ぶべきなのはそこではない。
攻略法を探る過程そのものを設計していること。
失敗し、
観察し、
理解し、
突破する。
そのユーザーの失敗体験と成功体験までもが、
ミリ単位でデザインされている。
美しいものと、気持ち悪いもの
美しいものが好きだ。
でも同じくらい、
気持ち悪いものも好きだ。
その二つが混ざったとき、
人間の好奇心は妙な形で刺激される。
R-Typeは、その感覚を
ゲームの形にした作品
だったのかもしれない。
プレイヤーは言う。
「うわ、気持ち悪……」
でもコインを入れる。
そしてまた次のステージへ進む。
人間というのはつくづく不思議な生き物だ。
……あるいは、
ただのドMなのかもしれない。

参考
R-Type
1987年にアイレム(Irem)からアーケード向けに発売された横スクロール型シューティングゲーム。プレイヤーは戦闘機R-9「アロー・ヘッド」を操り、機械と有機体が融合した敵勢力「バイド帝国」に立ち向かう。高難度で戦略的なゲーム設計と独創的な美術表現により、シューティングジャンルの金字塔とされる。
映画SAWシリーズ
アメリカのホラー映画シリーズ「ソウ(SAW)」は、2004年に公開されたジェームズ・ワン監督、リー・ワネル脚本の同名映画を起点とする長寿フランチャイズ。極限状況下の心理戦と残酷な罠装置を特徴とし、後に“トーチャー・ポルノ”と呼ばれるサブジャンルを確立した。興行的成功により10本以上の続編やスピンオフが制作され、シリーズ累計興収は10億米ドルを超える。
映画ヘルレイザー シリーズ
クライヴ・バーカー原作・監督の映画『Hellraiser(ヘルレイザー)』は、1987年に始まった英米合作のホラー映画シリーズ。異次元から現れる“セノバイト”と呼ばれる拷問官たち、そして彼らを呼び出すパズルボックス「ルマルシャンの箱」を中心に、官能と拷問が入り混じる残酷な世界を描く。
映画 エイリアン シリーズ
1979年に公開された『エイリアン』(原題: Alien)は、リドリー・スコット監督によるSFホラー映画。商業宇宙船ノストロモ号の乗組員が未知の異星生命体と遭遇し、次々と命を落としていく物語を描く。革新的な美術・映像表現と、シガニー・ウィーバー演じる女性主人公リプリー像によって、SF・ホラー映画史に大きな影響を与えた。
H. R. Giger(H・R・ギーガー)
スイスのシュルレアリスム系画家・造形作家(1940–2014)。本名ハンス・ルドルフ(ルエディ)・ギーガー。機械と有機体を融合させた「バイオメカニカル」な作風で知られ、映画『エイリアン』の造形を手掛けたことで世界的に名を広めた。幻想美術からSF映画まで幅広い分野に強い影響を残した。
小説 三体(The Three-Body Problem)
中国の作家・劉慈欣(Liu Cixin)による長編SF小説で、〈地球往事三部作(Remembrance of Earth’s Past)〉の第1巻。原著は2008年刊、英語版はケン・リュウ(Ken Liu)の翻訳で2014年に刊行された。人類と異星文明の接触を描き、2015年にヒューゴー賞長編小説部門を受賞した最初の中国語SF作品として国際的に注目を集めた。
