【戦術分析】張本智和 vs 松島輝空①|張本のレシーブを攻略した松島。「サーブの回転」でレシーブを限定する
WTTチャンピオンズ横浜で行われた、張本智和と松島輝空の一戦。
日本男子卓球界を代表する2人の対戦は、張本智和が4-2で勝利した。
しかし、この試合を単純に「張本が4-2で勝った試合」として終わらせるのは、少しもったいない。
この試合で非常に興味深かったのは、両者が相手の戦術に対して、試合中に何度も対応を重ねていたことだ。
張本がレシーブで松島のサーブを攻略する。
↓
松島がサーブの回転やコースを変える。
↓
張本がその変化に対応する。
↓
松島がさらにサーブを変える。
↓
張本がまたレシーブを変える。
このように、単純な技術のぶつかり合いではなく、
「相手が何を狙っているのか」
「その狙いをどう消すのか」
「さらに相手がどう対応してくるのか」
という、世界トップクラスの選手同士による戦術の応酬が繰り広げられた。
今回は前編として、まず松島が張本のレシーブに対して、どのような対策を打ち出したのかを見ていきたい。
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世界トップを争う日本の2人
まず、この試合を語るうえで欠かせないのが両者の現在地だ。
松島輝空は世界ランキング3位(当時)。
2025年、2026年の全日本選手権男子シングルスを連覇し、ワールドカップでは準優勝。
現在、世界で最も勢いのある選手の一人と言っていい。
さらに松島は、バックハンドでの高速なラリーを得意としており、バック側からフォアへ回り込んで攻撃する能力にも長けている。
対する張本智和は世界ランキング5位(当時)。
最高世界ランキングは2位。
2025年にはグランドスマッシュを制し、オリンピックにも2大会連続で出場。
長年にわたって世界のトップで戦い続ける、日本男子のエースだ。
そんな世界ランキング3位と5位。
現在の日本を代表する2人が、WTTチャンピオンズ横浜で激突した。
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試合は4-2で張本が勝利
試合は張本智和が4-2で勝利した。
ゲームごとの流れを見ると、
1・2ゲーム:張本
3・4ゲーム:松島
5・6ゲーム:張本
という展開だった。
一見すると、
張本が序盤を取る
↓
松島が追いつく
↓
張本が最後に突き放す
という試合に見える。
しかし、実際には各ゲームで両者の戦術が変化していた。
特に大きなポイントになったのが、
* サーブの回転
* サーブのコース
* 張本のレシーブの選択肢
* その結果、どちらが得意なラリーに持ち込めるか
だった。
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1・2ゲーム|張本のレシーブが松島のロングサーブを封じる
まず序盤、張本が見せたのが非常に質の高いレシーブだった。
特に印象的だったのが、松島のバック側へのロングサーブに対するレシーブ。
張本はバックハンドでボールをスッと持ち上げながら、しっかりと回転をかけて松島のフォアサイドへ返球していた。
ここで重要なのが、単に「フォア側へ返した」ということではない。
張本が強い回転をかけることで、ボールが松島の手元に到達する頃には回転によってボールが落ちる。
そのため松島は、ボールを高い打点で捉えることが難しくなる。
結果として、松島がロングサーブからすぐに攻撃へ移ることを難しくしていた。
そして、このレシーブの良さは松島のサーブ配球そのものにも影響した。
普段は配球の中でロングサーブを多く使う松島だが、第1ゲームではロングサーブをわずか2本しか使用していなかった。
これは非常に大きな意味を持つ。
張本は単純に、
「ロングサーブが来たら返球する」
というだけではない。
「ロングサーブを出しても、張本に質の高いレシーブをされる」
という状況を作ったことで、松島自身がロングサーブを選択しづらくなっていた。
つまり張本は、レシーブによって松島のサーブ戦術そのものを制限したのである。
これが1・2ゲームで張本が主導権を握った大きな要因の一つだった。
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松島は「サーブの回転」を変えた
しかし、松島もただロングサーブを減らすだけでは終わらなかった。
ここから松島が行ったのが、サーブそのものの変更だった。
ポイントになったのが、サーブの回転の種類だ。
1・2ゲームでは、松島は縦回転系のサーブを使っていた。
このサーブに対して張本は、
* ストップ
* ツッツキ
* その他のレシーブ
など、複数の選択肢を持つことができていた。
つまり張本にとって、レシーブの自由度が比較的高かった。
そこで松島は3ゲーム目以降、横回転系のサーブへ変更していく。
ここには明確な狙いがあった。
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3・4ゲーム|松島が張本のレシーブを限定する
松島が3・4ゲームで狙ったのは、
「張本のレシーブを自分のバック側へ集めること」
だった。
そのために中心となったのが、
* フォア前への横回転系サーブ
* フォアサイドへ出るか出ないかのサーブ
だった。
ここで重要なのは、
「フォア側にサーブを出したから、張本の返球がバック側へ行った」
という単純な話ではない。
松島は、サーブのコースと回転によって、張本が選択できるレシーブそのものを限定したのである。
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フォア前への横回転サーブ
まず松島は、フォア前へ横回転系のサーブを出す。
この横回転によって、張本が自由にレシーブすることを難しくする。
張本はフォア側で処理しながら、
松島のバック側へツッツキするか、チキータするか
という選択を迫られる。
つまり松島は、
「張本をフォア側で処理させる」
だけではなく、
「そのフォア側から、松島のバック側へ返球させる」
ところまで狙っていた。
これによって松島は、自分のバック側で張本のレシーブを待つことができる。
そして松島が得意とするのが、ここからの展開だ。
バックハンドでの高速なラリー。
さらに、張本の返球に合わせてフォア側へ回り込む。
つまり、
張本のレシーブを松島のバック側に集める
→ 松島が得意なバックハンドで触る
→ 必要に応じて回り込む
という、自分にとって非常に得意な展開を作ることができる。
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「出るか、出ないか」のサーブでも張本を縛る
さらに松島は、フォアサイドへ台から出るか、出ないかというサーブも組み合わせた。
これも非常に重要な戦術だった。
サーブが台から出れば、張本はバックハンドで処理することが難しくなる。
そのため、フォアでボールを持ち上げて返球することになる。
一方で、サーブが台から出なければ、フォアでツッツキすることになる。
つまり、
台から出る
→ フォアで持ち上げる
台から出ない
→ フォアでツッツキ
というように、どちらの場合でも張本にフォア側でレシーブさせることができる。
さらに、この配球によって張本のチキータを使える場面も減らすことができる。
つまり松島は、
「どのレシーブをするか」
だけではなく、
「そもそも、どの技術でレシーブできるのか」
まで限定していた。
そして、そこにフォア前へのサーブを組み合わせる。
こうして張本をフォア側で処理させ、最終的に松島のバック側へ返球させる。
松島はサーブによって、張本のレシーブの自由度をかなり狭めていた。
この戦術が機能したことで、第3・4ゲームは松島が連取。
ここで試合の流れが大きく変わった。
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松島の狙いは「自分の得意なラリーを作ること」
ここまでの松島の戦術を整理すると、非常にシンプルな構造が見えてくる。
松島がやりたかったのは、単純に「張本にフォアでレシーブさせる」ことではない。
最終的な目的は、
張本のレシーブを自分のバック側に集め、自分の得意なラリーに持ち込むこと。
そのために、
サーブの回転を変える。
↓
張本のレシーブの選択肢を減らす。
↓
フォア側で処理させる。
↓
松島のバック側へ返球させる。
↓
バックハンドで先に触る。
↓
必要なら回り込む。
という一連の流れを作っていた。
これは「サーブが上手い」というだけでは説明できない。
サーブを起点にして、その後の3球目、4球目まで設計していたのである。
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しかし、横回転にも弱点があった
ここで松島の戦術にも、一つ問題が出てくる。
それが、横回転系のサーブは縦回転系のサーブよりもチキータを仕掛けやすいことだ。
松島は3・4ゲームで横回転系のサーブを使うことで、張本のレシーブを限定することに成功していた。
しかし、その一方で張本には、
「チキータで攻撃する」
という選択肢が残る。
せっかく横回転系のサーブによって張本のレシーブを限定していたのに、その回転を利用されてチキータで先手を取られてしまう可能性が出てきた。
そして4ゲーム終盤、張本はそこを突き始める。
松島が作った「張本のレシーブを限定する」という問題に対して、張本が新しい答えを出し始めたのだ。
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前編まとめ
ここまでを見ると、3・4ゲームで松島が流れを変えた理由が分かる。
張本は序盤、ロングサーブへの質の高いレシーブによって松島のサーブ戦術を制限した。
そこで松島は、サーブの回転とコースを変えた。
そして、
張本のレシーブをフォア側に限定する
→ 松島のバック側へ返球させる
→ 自分の得意なバックハンド・回り込みへ持ち込む
という新しい戦術を作った。
これが機能して、松島は3・4ゲームを連取した。
しかし、ここで終わりではない。
松島が横回転系のサーブを使ったことで、今度は張本に新しい選択肢が生まれた。
チキータである。
松島が張本のレシーブを攻略したと思った瞬間、今度は張本が松島の新しいサーブ戦術に対して答えを出し始める。
そして5ゲーム目。
松島は再びサーブを変える。
ここから始まるのが、
「対策の上に、さらに対策を重ねる」
という、この試合最大の戦術戦だった。
後編では、張本が松島の戦術をどのように崩していったのかを詳しく見ていく。
