小噺〜一善録
「戸締り用心! 火の用心!」ってぇと、普通は町内の旦那衆ですが、ここのはちと毛色が違う。
拍子木を打つご隠居に、太鼓を叩くお相撲さん。纏(まとい)を振り回す音楽家に、着飾ったチンパンジー、さらには子どもたちまで付いてくるってぇ寸法で。
日曜日から土曜日まで年中無休。『一日一善』を合言葉に、今日も賑やかに出掛けて行きました。
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「おいおい、今日はまた一段と賑やかだねぇ」なんて、長屋の連中も窓を開けて身を乗り出す。
カチカチと拍子木を鳴らしたかと思えば、その手で道端のゴミをひょいと拾い上げる。
「おっと、ここの潜り戸、鍵が外れてるぜ」
なんて、チンパンジーが身軽に軒先へ飛びつき、うっかり開いていた二階の窓をぴしゃりと閉めて回る。迷子の猫が屋根から降りられねぇと見れば、これまたひょいと抱きかかえて下ろしてやる。
肝心の火事のほうはってぇと、この騒ぎに驚いて、火の粉もどっかへ逃げ出しちまうってなもんです。
「おや、あそこで立ち往生してるのは、米屋の婆さんじゃないか」
「どれどれ、荷物が重くて動けねぇってか。よし、お相撲さんの出番だ!」
……なんて具合に、火の用心そっちのけで人助けが始まっちまう。
お相撲さんが米俵を軽々と担ぎ、音楽家が景気よくラッパを鳴らせば、重い荷物も羽が生えたように軽くなるから不思議なもんで。
「ありがとよ、おかげで助かった」
「礼には及ばねぇよ。戸締り用心! 火の用心!」
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戸締り用心なんだか、火の用心なんだか、お祭りなんだか分かりゃしませんが、この町にゃあ、泥棒や火事よりも先に笑顔が広まってるようでございます。
「おいおい、そんなに人助けばかりして。火の気がないのは何よりだが、こっちは随分と熱気が凄ぇなぁ。肝心の火の用心はどうしたんだい?」
「へぇ、おかげさまで町中が『情け』に燃えておりますよ」
……お後がよろしいようで。
