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好きだったものと、無理のない距離で、再会した夜

お正月に、自分へのお年玉だと思って、
キャンドルナイトコンサートのチケットを購入した。

学生時代、吹奏楽部だった私は、
ブラスバンドや交響楽、アンサンブルに親しみがあり、
昔はコンサートにもよく足を運んでいた。

けれど引きこもりの時間が長くなり、
それらが「本当に好きなものなのかどうか」
自分でも分からなくなってしまった。

今、音楽に触れたらどうなるのだろう。
また、大きな会場で、たくさんの人が行き交う場所に、
自分は居られるのだろうか。
音楽を、ちゃんと楽しめるのだろうか。

そんなことを確かめてみたくて、
今回、思い切ってチケットを購入した。

キャンドルナイトは、
キャンドルの光に包まれた幻想的な空間で
生演奏を楽しめる人気のコンサートシリーズだ。
クラシック、映画音楽、ポップスまで幅広い選曲で、
Instagramの広告に何度も表示されるうちに、
自然と気になっていた。

一年ほど前から存在は知っていたけれど、
今回ようやく足を運ぶ決心がついた。

会場は、那覇文化芸術劇場なはーと。
2021年、コロナ禍の落ち着かない時期にオープンした新しい芸術劇場で、
地域の伝統的な空間構成が取り入れられた建築も印象的だった。
以前から興味があり、ずっと来てみたいと思っていた場所でもある。


会場へ向かう廊下に入った瞬間から、
すでにキャンドルの灯りだけに包まれていた。

会場に入る前から世界観が作られていて、
わずかな灯りを頼りに森の中を歩き、
たくさんの灯かりに辿り着く――
そんなメルヘンな童話の中に入り込むような感覚で、
自然と想像が膨らむ。

こうした導線があると、
気持ちがすっと世界観に没入しやすい。

暗めの空間に、照明はほぼキャンドルのみ。
ステージ上の演者にはスポットライトが当たり、
その周囲をたくさんのキャンドルが囲んでいる。
柔らかな光が、静かに揺れていた。

席は二階席の端、バルコニー席を選んだ。
一人掛けの椅子で、両隣を気にせず座れる。
決して良席とは言えないかもしれないが、
音楽を楽しむには十分だ。
音は、会場全体に響くのだから。

むしろ、人の気配を気にせず、
リラックスしてキャンドルの世界観に浸れるのが心地よかった。
通路にも、静かにキャンドルが灯っていた。

光は足りないはずなのに、不思議と不安はなかった。
揺れる灯りを見ていると、
心がゆっくり落ち着いていくのを感じた。


音楽が始まる前の沈黙は、とても心地よかった。
緊張よりも、
「この情景の中で奏でられる音楽は、
どんな気持ちを連れてくるのだろう」
という、穏やかなワクワクがあった。

ステージのキャンドルや、
通路に並ぶ灯りを眺めながら、
ゆっくりと開演を待つ。

今回は弦楽四重奏。
チェロ、ヴィオラ、第一バイオリン、第二バイオリンのカルテット。

演者の方々が入場し、
やがて演奏が始まった。

最初の一音は、
耳というより、体の中にすっと入ってきた感覚だった。
音楽が始まると、姿勢が自然と整い、
全身で音と空間と旋律の重なりを受け取ろうとしていた。


正直に言えば、いくつか不安もあった。

人の多い会場で閉塞感を感じてしまわないか。
音楽によって感情が溢れ、
涙が止まらなくなってしまわないか。
嫌な過去に意識を引き戻されて、
音楽を楽しめなくなるのではないか。

けれど実際は、
感情が大きく揺れるというよりも、
この瞬間を逃したくなくて、
耳と目と身体と心をフルに使って味わっていた。

演奏会に来るのは何十年ぶりだったけれど、
本当に来てよかった。
とても五感に響く時間だった。


音楽を聴きながら、
学生時代のことを思い出した。

さまざまな高校の有志が集まり、
アンサンブルコンテストに出たこと。
七、八人ほどだった気がする。

決して上手だったわけではないけれど、
とにかく楽しかった。

寒い寒い冬、2月。
みんなで会場に向かう電車の窓の外に、雪が降っていたけれど、それすらも楽しかった。

音を合わせること、息を合わせること。
肩の力を抜いて、ただ楽しんでいた感覚。

あのときの仲間たちは、
今どこで、何をしているのだろう。
そんなことを、ふと考えた。

懐かしさとともに、
「誰かと協力して何かを成し遂げること」を思い出した。
またいつか、
そういう時間を持ってみたいと思えた。

それは嫌な過去ではなく、
キャンドルの灯りのような、
やさしく柔らかなノスタルジーだった。


演目は久石譲さんの楽曲。
自分自身が演奏したことのある曲もあったが、
当時は気づかなかった
久石譲さんらしさ――
やさしさ、切なさ、軽やかさ、荘厳さ。
そのすべての奥にある「核」のようなものを、
今だからこそ感じ取れた気がする。

丸く、暖かく、安心できる空間の中で、
音楽に身を委ね、
ゆったりと浮かびながら聴いているような感覚だった。

揺れるキャンドルの光と音楽が重なり、
世界に引き込まれていくような幻想的な気持ちになる。
身体の中に、音楽と光がすうっと入ってくるようだった。

曲の終わりに残るハーモニーと残響の余韻がとても美しく、
音が重なるところ、
それぞれが主役になる瞬間、
音の抑揚や表現――
それらすべてを体全体で感じた。

決めるところはしっかり決め、
聴かせるところはきちんと聴かせる。
そのプロフェッショナルな在り方も、心地よかった。

中でも、チェロ奏者の演奏が印象的だった。
一音一音が丁寧で、安定感があり、表現力も豊か。
とても聴き心地がよく、
気づけばファンになっていた。

終演後、外に出ると星がとても綺麗で、
心が軽やかになっているのを感じた。

好きだったものが、
以前と同じ形で戻ってくるとは限らない。

けれど、キャンドルの灯りの中で聴いた音楽は、
「好きだった自分」に、
無理のない距離で再会させてくれた気がした。

不安はなく、
ただ静かにノスタルジーに浸りながら、
その時間を楽しむことができた。

それだけで、この夜は十分だった。

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