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昔々。


山奥に、

不思議な村がありました。


その村には老人がいません。


六十歳を超える者が、

一人もいないのです。


病気で死ぬわけでもありません。


事故でもありません。


ただ。


六十歳になると、

皆いなくなるのです。


村人は誰も気にしません。


まるで当たり前のように。


ある日。


旅の僧がその村を訪れました。


僧は驚きます。


若者ばかり。


子供もいる。


働き手もいる。


なのに老人だけいない。


村長も五十九歳。


最年長でした。


僧は尋ねます。


「六十を過ぎた者は?」


村人たちは笑いました。


「長生きしました」


それだけ。


答えになっていません。


夜。


僧は村長に聞きました。


すると村長は言います。


「明日です」


「私が六十になります」


どこか嬉しそうでした。


僧はますます不思議に思います。


翌日。


村中が祭りになりました。


酒。


歌。


踊り。


そして。


夜になると、

村長は一人で山へ向かいました。


村人は誰も止めません。


泣く者もいません。


皆。


笑顔です。


僧は後をつけました。


山奥。


深い森。


月明かり。


やがて。


開けた場所へ出ます。


そこには。


数え切れない墓がありました。


何百。


何千。


見渡す限り。


墓。


墓。


墓。


僧は息を呑みました。


村長は墓地の中央へ歩きます。


そして。


一つの空いた穴の前で止まりました。


自分の名前が刻まれています。


まだ生きているのに。


村長は満足そうに頷きました。


そして。


自分から穴へ入りました。


横になる。


笑っている。


僧は慌てました。


「何をしている!」


村長は答えます。


「帰るのです」


僧は穴へ駆け寄りました。


しかし。


その瞬間。


後ろから大勢の手が伸びてきました。


村人たちです。


いつの間にか。


全員いた。


無言で。


笑顔で。


僧を見ている。


気味が悪いほど。


全員。


同じ笑顔。


村長は穴の中から言いました。


「お坊様」


「あなたは知らないのですね」


「外の人は皆そうだ」


僧は叫びます。


「何をだ!」


村長は答えました。


「人間は六十年しか生きられない」


僧は呆れます。


当然です。


そんなわけがない。


村長は続けます。


「それ以上生きるものは」


「もう人間ではない」


村人たちが一斉に頷きました。


全員。


同じ動きで。


同じ角度で。


同じ速度で。


まるで一つの生き物のように。


僧は寒気を覚えました。


その時。


一人の少女が言いました。


「お坊様は何歳ですか」


僧は答えます。


「六十五だ」


沈黙。


そして。


村人全員の笑顔が消えました。


初めて。


笑顔が。


消えた。


恐怖の表情になった。


老人でもない。


化け物を見るような顔。


少女は震えながら言いました。


「いる」


別の村人。


「本当にいた」


また別の村人。


「生きてる」


「六十を超えて」


「生きてる」


ざわめき。


恐怖。


混乱。


僧は気付きました。


この村の人間は。


本気で信じている。


六十以上は人間ではないと。


そして。


もっと恐ろしいことに。


その夜。


村人たちは相談を始めました。


僧をどうするか。


殺すか。


閉じ込めるか。


燃やすか。


皆。


善意で話していました。


村を守るため。


正しいこととして。


翌朝。


僧は村から逃げ出しました。


二度と戻りませんでした。


それから数十年後。


その村は発見されました。


無人でした。


人影はありません。


家も残っている。


畑もある。


なのに誰もいない。


調査隊は不思議に思いました。


そして。


山奥の墓地を見つけます。


無数の墓。


何千も。


その全てに、

同じ年齢が刻まれていました。


享年 六十歳


全員。


男も女も。


子供も。


例外なく。


そして。


一番新しい墓だけ。


まだ土が新しかった。


そこには、

こう刻まれていました。


享年 六十五歳


名前は。


あの僧でした。

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