ホラー短編:人数
「このトンネルだけは行くな。」
地元では有名な噂だった。
理由を聞いても、みんな同じことしか言わない。
「帰る時、人数を数えるな。」
意味が分からなかった。
大学生だった私は、友人四人と肝試しに向かった。
夜中の一時。
山奥の古いトンネル。
入口には錆びたフェンスが倒れていた。
「本当に何もないじゃん。」
笑いながら中へ入る。
中は異常に静かだった。
水が落ちる音だけが響く。
十分ほど歩くと、
一番後ろを歩いていた友人が立ち止まった。
「……誰か、肩触った?」
誰も触っていない。
「気のせいだろ。」
そのまま進んだ。
トンネルの奥には、
小さな祠があった。
手を合わせる者もいれば、
写真を撮る者もいた。
そして引き返した。
出口が見えた時、
友人の一人が笑いながら言った。
「ちゃんと四人いる?」
その言葉を聞いた瞬間、
全員の笑顔が消えた。
言ってはいけない言葉だった。
友人はふざけて数え始めた。
「一。」
「二。」
「三。」
「四。」
「……五。」
全員が固まる。
もう一度数える。
「一。」
「二。」
「三。」
「四。」
「五。」
確かに五人いる。
でも、
来たのは四人だった。
全員がお互いの顔を見る。
知らない顔はいない。
全員、
見慣れた友人だ。
「誰だよ……。」
誰も答えられない。
すると、
一人が震えた声で言った。
「待て。」
「俺たち全員……
自分が本物だって証明できるか?」
誰も声を出せなかった。
すると、
一人の友人が急に笑い始めた。
「ははっ。」
「面白いな。」
笑い方がおかしい。
口だけが笑っている。
目は一度も笑っていない。
私たちは逃げた。
全力で走る。
やっと車に飛び乗った。
ドアを閉める。
全員、
息を切らしていた。
その時、
運転席の友人が小さく言った。
「……また五人いる。」
車内には、
私たちしかいない。
そう思った。
しかし、
ルームミラーを見る。
後部座席には三人座っていた。
二人しか乗っていないはずなのに。
真ん中に、
知らない男が座っていた。
顔は見えない。
下を向いたまま、
濡れた髪から水を垂らしている。
私は悲鳴を上げた。
振り返る。
誰もいない。
もう一度ミラーを見る。
いる。
確実にいる。
男は、
少しずつ顔を上げていた。
運転手がアクセルを踏む。
車は猛スピードで山を下る。
十分後。
コンビニへ逃げ込んだ。
店員に助けを求める。
事情を話す。
店員は真っ青になった。
「人数……数えたんですか。」
私はうなずいた。
店員は静かに言った。
「じゃあもう遅い。」
「一人連れてきています。」
私は叫ぶ。
「どこに!?」
店員は、
私の後ろではなく、
足元を見ていた。
ゆっくり視線を落とす。
床に、
五人分の足跡が並んでいた。
濡れた足跡。
私たちは四人。
一つだけ、
裸足だった。
しかも、
その足跡は店の奥へ向かっていない。
私の真後ろで止まっていた。
店員は震えながら言った。
「お願いです。」
「振り返らないでください。」
その瞬間、
耳元で、
知らない男の声がした。
「やっと数えてくれた。」
冷たい息が首にかかる。
私は動けない。
すると店員の顔が絶望に変わった。
私ではなく、
私の肩を見ている。
涙声で、
こう言った。
「……もう一人、
乗っています。」
私は反射的に肩を見る。
そこには何もない。
安心した、その瞬間。
スマホの画面が勝手に点いた。
インカメラが起動していた。
画面には私が映っている。
そして、
私の肩の上に、
首だけの男が笑っていた。
その顔は、
トンネルで最後に数えた、
**"五人目"**だった。
