ほいほい後記【其の十七】よっちゃんとカセット
本編で話していて、小学校時代を思い出した。
小学三年生くらいからファミコンがブームになった。当時はソフトのことをカセットと呼び、友達同士で貸し借りすることが流行っていた。
近所に、よっちゃんという男の子がいた。
小学一年生くらいだったと思う。目がくりっとして、愛らしい顔をしていた。
年下なのに、
「おい、夢ノ介」
と呼び捨てにしてくる。それが舌足らずな感じでおもしろく、近所のみんなから可愛がられていた。
ただ、みんなが警戒していたことがあった。
よっちゃんは、いつもよだれだらけなのだ。名前も忘れたので、よっちゃんの「よ」は、よだれの「よ」だったのかもしれない。
近づくと、結構なにおいがする。
だからみんな、よっちゃんをかわいいと思いつつも、決して近づかず、一メートルくらい離れたところからかわいがっていた。
そんなよっちゃんが、ある日俺に声をかけてきた。
「夢ノ介のカセットがやりたい」
俺は困惑した。
もちろん、貸してあげたい気持ちはやまやまである。しかし、貸してしまったら、俺のカセットは終わるだろう。
迷ったあげく、俺は答えた。
「あれはなくした」
よっちゃんが、じっと俺を見た。
「嘘じゃん」
よっちゃんが俺を指さした。第二関節くらいまで、よだれでぬらぬら光っている。
俺は顔をしかめた。
詰んでいる。
ここで貸さなければ、俺は器の小さい小学三年生として、たちまち近所に知れ渡るだろう。
しぶしぶ、よっちゃんにカセットを渡した。
ただし一日だけだ。絶対に一日だ。一日でも心配なのだ。
翌日の放課後、俺は全力でよっちゃんの家へ走った。息を切らしながらピンポンを押すと、よっちゃんが出てきた。
返されたカセットを、親指と人差し指でつまんだ。
それは、規格外の代物になっていた。
よだれだけではない。油と、のり塩でべっとりとしていたのだ。
ずいぶん楽しんだんだな。
俺は無言で、用意していたタオルにカセットを包み、スーパーのビニール袋に入れた。
そのカセットを、ファミコンに差し込むことは二度となかった。
終わり。
本編はこちら。
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ファミコンにまつわる思い出についても話しております。
よろしければお聞きくだされ。
