夜職保育士さんと僕15 話す勇気
この物語はたぶんフィクションです
ミキさんと僕もたぶん空想上の誰かです
でも、空想上でも良いから、2人のかけがえのない時間を残せたら良いなと思います
年明けから少し、ミキさんが退院となった
朝から病院に迎えに行き、一緒に家に向かった
道すがら
「やっぱりフライドチキン食べたくなる?」
って聞いたら
「君が美幸に毒された気がする、やっぱ家に泊めるんじゃなかった」
と笑っていた
簡単な買い物を済ませて家に向かう
部屋に入ると
「やっぱり家は良いね、落ち着くよ」
ミキさんはそのままベッドでゴロゴロし始める
「洗濯まわすから、洗濯物出しちゃっていい?」
とベッドで転がってるミキさんのところへ
「その前に…ちょっとだけこっち来て」
と、両手を僕の方へ向かって伸ばす
少しだけ寂しそうに見えたミキさんに逆らえず、僕もベッドに横になる
ミキさんは僕の頭をかかえるように抱き、頭をグシャグシャし始める
「美幸に誘惑されなかった?」
「一緒に寝るか?ってからかわれた。ああいう所、すごくミキさんに似てるなって思った」
「やっぱりなー、分かっててやってるからね、許してあげて。私達そういう所っていうか、色々似てるんだよね。お互いに自分の分身みたいだって思ってる所あるんだ」
「確かに二人とも似てるかも。でも、ミキさんの方が凄く危うい感じがするんだ」
「うーん、確かにそれはあるかも。君はたまに何かが見えてるんじゃないかって思う事あるわ。私達、専門学校で知り合ってから仲良くなって、卒業した後に付き合って一緒に住んでたんだ。でも、私が夜職のバイト始めたあたりで別れることになったんだよね。美幸が言うには、自分が壊れていく姿を見てるみたいで我慢ができなくなったんだって」
「別れたって言っても、二人はお互いの理解者っぽい感じだよね?」
「そうだね、別れたけど、自分の分身みたいなもんだから、結局一緒にいるんだよね」
「似てるけど、ミキさんはやっぱりミキさんだよ。こうしてもらってると、ミキさんだなぁって思う」
「なにそれ、君はたまに分かんない事言うね。でもなんか嬉しい」
ミキさんは体を起こして
「シャワー浴びてくる」
って言ってお風呂場に向かった
「まだ湯船には入っちゃダメって言われてるから、シャワーだけしか使えないのよね。冬は寒いから、風邪ひいちゃいそう」
とシャワーを終えた後に、結局買って帰ってきたフライドチキンをモグモグと食べながらミキさんが愚痴る
「まあ、感染症起こしたら大変だからね。傷の所、薬塗らなきゃでしょ。それ食べ終わったら、髪乾かすから、ついでに薬も塗るよ」
と僕は答える
「なんか介護されてる気がしてきた。まだそんな年じゃないもん。でも、君にしてもらえるなら安心できるかな」
「こう見えて3ヶ月後には介護士デビューしますから。ばっちり介護しますんで、お任せください」
そんなやりとりをして、ミキさんの髪を乾かし薬を塗る。
洗濯物を干して、食器を洗い、シャワーを浴びてリビングに戻る
ミキさんはベッドで寝息を立てていた
湯冷しに少しだけ、ビールとフライドチキンでのんびりする
寝息を立てているミキさんを見て、病院で見たミキさんを思い出してしまった
聞くには覚悟が必要だという美幸さんの言葉を思い返して少しだけ不安になる
しばらくそうしているうちに体がだいぶ冷えてしまっていた
眠気はなかったけど、久しぶりにミキさんを感じながら眠れると思ってベッドに入った
布団に潜り込むとミキさんが、僕を抱きしめてくれた
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、さっき目が覚めちゃって、少し考え事してた」
ミキさんは続けて
「少し話聞いてくれる?」
と言う
「僕も聞かなきゃいけない話があると思ってた」
と答える
「たぶん私もその話だから。でも顔見ながら話す勇気がないからそのまま聞いて」
「うん、いくらでも聞くから、聞かせて欲しい」
「私ね、高三の夏休みに赤ちゃんを殺したの。殺したって言うべきか分からないけど、私の中では殺したと思ってる」
「相手は同じクラスの子だったんだ。妊娠がわかった時、親含めて話し合いになったの。向こうは、こんな事が学校にバレて息子の将来に何かあったらどうしてくれるんだってメチャクチャ怒ってて、うちはお母さんしかいないから、謝るばっかりだった。あの場には、産んで育てようなんて思っている人は誰もいなかったんだ」
「結局話し合いの翌日には病院に連れて行かれて、そのまま中絶手術を受けたの。麻酔で眠ってたから、ほとんど実感なかったんだよね。でも、看護師さんに辛かったよねって言われて、凄く泣いちゃったのは覚えてる」
「夏休み明けには私の噂が広まってて、みんなが私のこと見てるんじゃないかって怖くなって……学校行けなくなっちゃった。私ね結構成績も良くって、県立の大学確実って言われてたんだけどね、結局ギリギリ卒業みたいな感じになっちゃった」
「地元にいるのも辛くって、東京に出てくる口実に保育の専門学校に入ったんだ。子供を見るたびに心が潰れそうになったよ。でも、それが自分への罰だって思ってた」
「ホントに勝手だよね。自分で罰だとか言って子供に関わる仕事してるんだもん。自己満足もいいとこだよね。そんな時に美幸と出会ったんだ」
「美幸はね、私が許すから私のそばにいなさいって言ってくれたの。誰かに許されるって事がすごい嬉しかったんだ。美幸がいなかったら、私はバランス失ってどうかなっちゃってたと思う」
「……ごめんね、こんな話聞きたくないよね」
ミキさんの声は震えていた
「僕は許すとか許さないとかは分からない。でもミキさんが自分を許せるようになるまで一緒にいるよ。だから、一緒にいさせてほしい」
話の内容に押しつぶされそうになりながら、一生懸命自分の言葉で伝えた
「君はこんな私と一緒にいたいと思うの?」
ミキさんは震える腕で僕を抱きしめる
「どんなミキさんだって、僕にとってはたった一人のミキさんだよ。前にも言ったけど、僕はミキさんが好きなんだよ」
「ありがとう、すごく嬉しいよ。私も君が好き。いつになるか分からないけど、私を許せるようになるまで一緒にいてほしい」
そうして二人で抱き合いながら、時間が止まっているんじゃないかと思えるような夜を過ごした
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