「黒字倒産」の足音。どんぶり勘定のビルダーが陥るキャッシュアウトの罠
皆様、おはようございます。
建設経営サバイバルの「にい」です。
私は、累計受注20億超。
買掛金負債7000万円を完済。
それでも会社を畳んだ元社長です。
現在は、年商15億・職員数150名規模のグループで、建設部門のNo.2として現場に立っています。
はじめての方は、まずこちらのプロフィール投稿をお読みいただけると嬉しいです。
前回は、なぜ職人は若手を育てないのか、現場の世代交代のリアルについてお話ししました。
今回は、数字の話です。
しかも、かなり怖い話です。
「今期は過去最高の売上だ」
「利益もしっかり出ている」
「決算書上は黒字だ」
そう聞くと、多くの人は安心します。
でも、経営者に本当に聞くべきことは、そこではありません。
その時、あなたの会社の銀行口座には、明日、協力業者に払う現金が残っていますか。
社員の給料を払う現金はありますか。
社会保険料を払う現金はありますか。
次の仕入れをする現金はありますか。
帳簿上の利益はある。
でも、通帳に現金がない。
それが、黒字倒産の入口です。
今日は、
「黒字倒産」の足音。どんぶり勘定のビルダーが陥るキャッシュアウトの罠
についてお話しします。
利益が出ているのに、会社が死ぬ
利益が出ているのに、会社が死ぬ。
これが、黒字倒産の本当の怖さです。
私はかつて、自分の会社を畳みました。
その足音を、誰よりも近くで聞いてきました。
締め日に上がってくる膨大な請求書の束。
社員の給与。
社会保険料。
材料代。
外注費。
リース料。
借入返済。
それらを前にして、銀行口座の残高を見る。
入金予定を見る。
支払予定を見る。
そして、血の気が引く。
あの瞬間の感覚は、今でも身体が覚えています。
「足りない」
その一言が、経営者の心臓を締めつけます。
売上がある。
現場も動いている。
請求書も出している。
なのに、現金が足りない。
これが一番怖いのです。
どれだけ帳簿上に利益があっても、今日払う現金が尽きた瞬間、会社は止まります。
決算書の利益は、明日の支払いをしてくれません。
通帳の残高だけが、現実です。
当座貸越は、命綱であり、首輪でもある
資金繰りが厳しくなった会社にとって、銀行の融資枠は命綱です。
その一つに、当座貸越があります。
当座貸越とは、簡単に言えば、一定額まで自由に資金を引き出せる銀行の融資枠です。
信用がある会社だから設定してもらえる。
いざという時に使える。
経営者にとっては、かなり大きな安心材料です。
しかし、この命綱は、永遠ではありません。
資金繰りが悪化する。
決算内容が悪くなる。
銀行が危ないと判断する。
そうなれば、銀行はその枠を締めてきます。
それまで使えていた枠が、使えなくなる。
返済を求められる。
新たな引き出しができなくなる。
これが起きると、資金繰りは一気に詰まります。
当座貸越は、命綱です。
でも、会社が弱った時には、首輪にもなります。
銀行は雨の日に傘を取り上げると言われます。
しかし、銀行も商売です。
危ない会社に、無限に資金を出し続けることはできません。
だからこそ、経営者は銀行に頼る前に、現場の数字を守らなければならないのです。
利益は意見、現金は事実
建設・不動産業界には、恐ろしい勘違いをしている経営者がいます。
土地がある。
在庫がある。
未成工事支出金がある。
完成前の案件がある。
だから、まだ大丈夫だ。
そう思っている。
もちろん、貸借対照表上では資産に見えるかもしれません。
しかし、その資産は本当に今の価値で売れますか。
仕入れた土地は、購入時と同じ価値がありますか。
不良在庫になっている資材は、本当に現金化できますか。
回収が遅れている売掛金は、予定通り入ってきますか。
帳簿上は資産でも、現金にならなければ支払いには使えません。
利益は、会計上の結果です。
でも現金は、今日の現実です。
利益は意見。
現金は事実。
この感覚を持っていない会社は、黒字でも簡単に倒れます。
なぜ現金が消えていくのか
では、なぜ現金が消えていくのか。
理由はいくつもあります。
入金より先に支払いが来る。
工事が遅れる。
追加工事の請求が遅れる。
お客様からの入金がズレる。
材料費が先に出る。
外注費が先に出る。
銀行返済が重い。
社会保険料や税金が重なる。
しかし、地場ビルダーや工務店で特に怖いのは、現場のどんぶり勘定です。
実行予算を組まない。
工事台帳を見ない。
今いくら粗利が残っているのか把握していない。
予備費がいくらあるのか分かっていない。
追加工事が発生しても、請求できるかどうかを詰めていない。
現場判断でサービス工事をしてしまう。
お客様や協力業者にいい顔をして、原価だけが増えていく。
一つひとつは小さな金額かもしれません。
でも、その小さな甘さが積み重なる。
数万円。
十数万円。
数十万円。
一棟ごとに少しずつ粗利が削られる。
それが年間で積み上がる。
気づいた時には、決算書の利益を大きく食っている。
これが、どんぶり勘定の怖さです。
サービス工事は、会社の現金を削っている
現場監督や営業が、お客様のために動くことは悪いことではありません。
協力業者を助けることも、悪いことではありません。
しかし、発注者に請求できない追加工事を、簡単に会社負担で処理してはいけません。
「これくらいならサービスで」
「お客様に言いにくいから」
「協力業者も困っているから」
「現場を止めたくないから」
その気持ちは分かります。
私も現場出身です。
お客様に喜んでもらいたい気持ちも分かります。
協力業者に無理を言いたくない気持ちも分かります。
でも、会社の現金には限界があります。
サービス工事は、誰かが負担しています。
その多くは、会社の粗利です。
粗利が減れば、利益が減る。
利益が減れば、手元資金が弱くなる。
手元資金が弱くなれば、次の支払いに耐えられなくなる。
つまり、現場の小さなサービスは、会社の現金を削っているのです。
優しさで会社を潰してはいけません。
現場のいい顔が、会社の資金繰りを殺すことがあります。
No.2は、現場と数字の防波堤である
だからこそ、No.2が防波堤にならなければなりません。
社長は未来を見る。
銀行と向き合う。
大きな経営判断をする。
外で戦う。
その一方で、No.2は現場と数字をつなぐ必要があります。
現場の出来高。
着工金。
中間金。
竣工金。
入金予定。
支払い予定。
材料の発注時期。
外注費の支払日。
追加工事の請求可否。
工事台帳の粗利。
これらを見ずに、現場は動かせません。
現場は現場。
経理は経理。
営業は営業。
工務は工務。
そうやって分断している会社は危険です。
現場で起きていることは、すべて数字に出ます。
数字で起きていることは、必ず現場に原因があります。
ここをつなぐのが、No.2の仕事です。
締め日の翌日に発注するという実務
資金繰りは、根性論ではありません。
実務です。
たとえば、金額の大きい仕入れや工事は、締め日の前に動かすのか、締め日の後に動かすのかで、資金繰りが大きく変わります。
支払いサイトが月末締め翌月末払いなら、締め日前に発注すれば支払いは早く来ます。
締め日の翌日に発注すれば、支払いは一ヶ月先に延びます。
もちろん、工程上どうしても前倒ししなければならない場合はあります。
現場を止めてはいけない場面もあります。
しかし、何も考えずに発注してはいけません。
工程を組む段階で、入金と支払いのズレを見ておく。
大きな発注は、支払いサイトを意識する。
入金予定と支払予定を並べて見る。
これだけで、資金繰りはかなり安定します。
現場監督だけに任せてはいけません。
経理だけに任せてもいけません。
現場の工程と、会社の資金繰りをつなぐ人間が必要です。
それがNo.2です。
会計を管理する関所
私は今、No.2として、数字の関所を作っています。
毎月10日に、資金繰りの会議を行う。
経理総務と現場監督を出席させる。
工事台帳は、会議の3日前までに提出させる。
各現場の粗利を見る。
追加工事を見る。
請求漏れを見る。
未請求を見る。
支払い予定を見る。
入金予定を見る。
工事の進捗を見る。
そして、当月だけではなく、先の資金繰りを見る。
支払日が末日であれば、毎月15日には、当月プラス6ヶ月先までの資金繰り予測を社長に提出する。
わたしの場合は毎月向こう1年分を作成しております。
これは、ただの資料作りではありません。
会社を守るための防波堤です。
数字は、見たくない時ほど見なければなりません。
怖い時ほど、逃げてはいけません。
数字から逃げた瞬間、経営は感覚になります。
感覚で経営すると、黒字でも現金が消えます。
では、会社に現預金はいくらあればよいのか
ここで、安定経営の一つの指標を置いておきます。
会社に現預金はいくらあればよいのか。
まず最初にやるべきことは、自社の固定費を正確に把握することです。
役員報酬。
社員給与。
社会保険料。
家賃。
リース料。
車両費。
通信費。
水道光熱費。
保険料。
借入返済。
最低限必要な外注費や管理費。
毎月、何もしなくても必ず出ていくお金はいくらなのか。
ここを正確に把握してください。
そのうえで、最低でも固定費の3ヶ月分。
できれば6ヶ月分。
これが、会社を守るための現預金の目安です。
3ヶ月分は最低ライン。
6ヶ月分あれば、かなり強いセーフティーネットになります。
もちろん、すべてを自己資金(利益)で持てという話ではありません。
借入で確保してもいい。
むしろ、借入で何とかなる段階なら、確保するべきだと私は思っています。
なぜなら、資金繰りが本当に苦しくなってから銀行に相談しても、銀行は簡単には傘を貸してくれないからです。
雨の日に、銀行は傘を貸してくれません。
だからこそ、晴れているうちに資金を確保する。
使うためではありません。
会社を守るために持っておくのです。
通帳残高は、経営者の精神安定剤ではありません。
会社を守る防波堤です。
固定費3ヶ月分を切ったら黄色信号。
固定費1ヶ月分を切ったら赤信号。
毎月の支払いを祈るように待つ状態になったら、すでに経営ではなく延命です。
黒字倒産を防ぐには、利益を見るだけでは足りません。
固定費に対して、何ヶ月分の現預金があるのか。
この感覚を持つことが、安定経営の第一歩です。
社長が夢を見るなら、No.2は現実を見る
社長には、夢を見る仕事があります。
未来を見る。
投資を考える。
新しい事業を考える。
人を採る。
外と戦う。
銀行と向き合う。
会社の方向を決める。
それは社長にしかできません。
でも、社長が夢を見ている間、誰かが現実を見ていなければなりません。
通帳の残高。
支払い予定。
入金予定。
工事台帳。
粗利。
請求漏れ。
追加工事。
資金繰り表。
固定費の何ヶ月分の現預金があるのか。
ここを睨み続ける人間が必要です。
それがNo.2です。
社長が未来を見るなら、No.2は現実を見る。
社長が攻めるなら、No.2は守る。
社長が外で戦うなら、No.2は内側の数字を守る。
この役割分担ができていない会社は、危ないです。
黒字倒産を防ぐチェックリスト
最後に、黒字倒産を防ぐためのチェックリストを置いておきます。
一つでも当てはまるなら、会社の現金が静かに削られている可能性があります。
売上と利益は見ているが、通帳残高を毎週確認していない
固定費の3ヶ月分以上の現預金を確保できていない
固定費の6ヶ月分を、経営の安全残高として設定していない
借入を悪と考え、必要な運転資金の確保を後回しにしている
6ヶ月先までの資金繰り表を作っていない
工事台帳の提出が遅い、または形だけになっている
実行予算を組まずに現場を始めている
追加工事の請求可否を、現場任せにしている
サービス工事の金額を把握していない
大きな発注のタイミングを、支払いサイトと連動させていない
着工金・中間金・竣工金の入金予定を現場と経理が共有していない
経理と現場監督が同じ数字を見ていない
社長だけが資金繰りを抱え込み、No.2や幹部に共有していない
銀行の融資枠があるから大丈夫だと思っている
帳簿上の資産を、すぐ現金化できるものだと思っている
黒字倒産は、突然起きるように見えます。
でも、本当は違います。
足音は前から鳴っています。
通帳残高に。
工事台帳に。
請求漏れに。
追加工事に。
サービス工事に。
資金繰り表に。
固定費に対する現預金の月数に。
その小さな違和感を見逃し続けた結果、ある日、支払いができなくなるのです。
次回予告
次回、7/17(金)は、
原価管理を現場監督任せにするな。No.2が握るべき「1円単位の防波堤」
契約を取りたい営業。
利益を守りたい会社。
お客様にいい顔をしたい現場。
その間で、原価は簡単に崩れていきます。
次回は、No.2がどのように原価の関所となり、1円単位で会社の利益を守るのか。
かなり実務に踏み込んでお話しします。
建設経営サバイバル人気記事
私がなぜこのような発信をしているのか。
会社を畳んだ経験と、そこからもう一度建設業の現場に戻ってきた記録を、全10話でまとめています。
成功談ではありません。
失敗を美化する話でもありません。
建設業で一度地獄を見た人間の、生還記録です。
まず第1話から読む方はこちらです。
No.2の役割については、こちらの記事でも詳しく書いています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回まで、さよならお元気さまで!
