毎日美術⭐︎絵を描きたいというエネルギー
「世界中の障害のある表現者を対象に、作家のキャリアの芽吹きを後押しすることを目的とした国際アートアワード」という展示が東京丸の内にて開催されているという事をテレビのニュースで知って、行ってきました。
絵を描きたい!描かずにはいられない!
そんなエネルギー溢れる作品に、人間の表現というものを考えさせられました。
極限の美の世界をみせてもらったような気がいたしました。

「所属している施設では、刺し子と刺繍を中心に行い、仕事の時間外でも制作を続ける。繊細な針の運びによってうまれる模様は、彼女の静かな集中力とやわらかな感性が重なり合っており、ひと針ひと針の積み重ねが、そのまま作品として残っていくという事が魅力。大きなタペストリー作品を好み、布の上に丁寧に刺し重ねられる線は、時間の積層そのものでもある。明確な図案を決めず、布と向き合いながら針を進めていく中で、線や形が少しずつ広がっていく。どこから縫い始めるかは彼女の感覚に任せており、ひと針ずつ進めながら全体のバランスを見てさらに縫い重ねていく為、完成には数か月ほどかかった。」会場展示説明より


「12歳の頃、IKEAで購入したアイロンビーズをきっかけに、その制作にのめり込んでいく。作品が増え続けることに家族が困惑し、5年間生セクを離れた時期もあった。精神状態が悪化した思春期に、心の落ち着きを取り戻すため、かつて夢中になったアイロンビーズによる創作活動を再開。以来、印象に残っている小学校の給食やおうちごはん、外食、作業所ごはんを頭の中で想像しながら日々アイロンビーズを使った制作に取り組む。創りあげた自身の作品を時間を忘れて眺めているほど、鑑賞する時間もまた、彼の心の支えとなっている」会場展示説明より
おもしろい表現だと思いました。作者は毎日の食事の色合いを日々感じ「デザイン」を想像した時に、このアイロンビーズという素材が、すぐに自分の思いを形にすることができると気づき、とても嬉しかったのではないでしょうか。

「素材や技法にとらわれない自由な発想で、絵画、イラスト、立体など多様な表現を横断しながら制作を行う。日用品や自然、人体などから着想を得る彼女の創作活動は、6㎝のマグネットから14㎝×4.8㎝のショーウインドウまで、幅広いスケールおよび、モノクロームから色彩豊かな表現までそのトーンも様々。彼女にとって絵は、叶わぬ恋の「昇華」であり、他人軸の思春期を「消化」する拠り所でもある。本作は、瞑想のように色のドットを置き続けた末に生まれた作品。厚いマチエールが奥行きを生みだし、一つ一つのいびつな点に生命力が宿っている。」会場展示説明より
なんて良い色合いのピンクなのだろうと感動しました。ピンクのドットは最初のせていない作品で完成とされていたものだったそうですが、期間を経てこの作品にたどりついたのだとか。ドットのない作品も想像してみたのですが、全くちがう雰囲気だったのではないかと思われました。

「19歳のとき、世界で症例わずか5名の希少難病が判明し入院。寝たきりの状態となるも闘病しんがら独学で絵を描き始める。30年間にわたり描き続けてきた作品のほとんどは、作家が見た夢や空想の世界をテーマにしている。本作は、キャンパスに油性ペン、不織布、寒冷紗・アルミホイル・キッチンペーパー・画用紙・飲んだ薬の梱包紙など彼女の身近にあるものを貼り、その上からアクリル絵の具と油性ペンで描いている。日々のほとんどを自室という限られた空間で過ごす彼女にとって、真に自由でいられるのは創造的な夢の中の世界と、制作活動に没頭する瞬間である。」会場展示説明より
独特の世界観を感じました。そして空間の作り方や透け感などがとても美しいリズムを感じます。選ばれている色に、なにか「時間」を感じるような魅力があります。

大画面に緻密な絵がうわあーと広がっています。



「オーシャン(名前)は、障害をもつ詩人、小説家、そしてビジュアルアーティストである。原初的言語(プロト・ランゲージ)や意味をもたない書記(アセミック・ライティング)に着想を得てきた彼の近年の関心は、言語が可読性や発話可能性の境界を越え、やがて判読不能で語りえない領域へと漂流していく過程を観察することに向けられられている。本作は、同一のフレーズを何百回も重ね書きされている。過度に反復することでやがて判読不能になりながらも、こだまのように残響するフレーズは、紙の繊維に沿って滲むインクの斑点、動物の足跡を思わせるアルファベット状の痕跡、そして黒い大地の奥深くで脈打つ鉱脈の静けさへと還元される。」会場展示説明より
娘がまだ話もできないような幼い頃に、こんな作品をつくったことを思い出しました。母親の書く文字をみようみまねで紙に書き出し、同じ作業をずっと続けておりました。彼女の陶酔しきったような、満足げな様子を今も思い出すことが出来ます。

「絵を描くことに幼い頃から関心を示し、寡黙ながらひたむきに制作に向き合うカー・ハン(名前)を両親は温かく支えてきた。当初はパステルや絵の具を用いていたが、現在は、自身の制作スタイルにより適している色鉛筆が彼の主要な画材となっている。描き続けるにつれて作品はさらに洗練され、徐々に抽象性を増していく。大きな白い紙の上に鋭く尖った色鉛筆を用いて、幾層にも色を重ねる。何か月にもわたり、深い集中力とエネルギーをもって描き続けることで、作品は次第に鮮やかな輝きを帯びていく。そうして生みだされた形象の連なりは、布地や絨毯、あるいは詩集を思わせる趣を感じさせる。」会場展示説明より
この作品が今回のグランプリを受賞されたものでした。

観た時すぐに思ったのは植物の細胞でした。
緑という色合いが全体にあることもそんな想像を呼び寄せたのかもしれませんが、小学生の時に教科書でみた葉の気孔を思い出したのです。
気孔は植物の呼吸口と知り、植物の生を初めて感じた衝撃を今でも思い出します。
そんな「生」をこの作品にも感じ、圧倒的なエネルギーを受けるような気がしました。近づいてより多くの情報を得ると、その色合いの複雑さの美しさがよくわかります。
作者がこの作品を制作する上でどんなにかワクワクしたであろうかと、同じ気持ちが伝わってくるようで嬉しくなりました。
沢山の作品を観させていただき、絵を描くということを改めて考えさせられました。
幼い頃から私も絵を描くことが好きで毎日のように何かを描いていましたが、今記憶に残るその情景は、漫画のような女の子を描いてみたいとか目の前にある風景を描いてみるとか図鑑の動物たちをまねて描いてみるとか、その目的がはっきりとあったものばかり。
しかし我が子たちの成長過程において、もっと「絵」とはいえないような、それこそ文字への憧れからただ鉛筆をにぎり動かしただけという原始的ともいえる「跡」を観た時、私の絵もおそらくそんなところからの出発があり情熱が始まったのではないかと考え、彼女のその「描きたい」というエネルギーの痕跡に当時とても感動したことを覚えています。
いままたそんなことを思い出しながら、ただ心の底から湧き上がる「描きたい」という眼に見えない力についてもっと考えてみたくなるのでした。
この展示は2026年6月27日まで東京駅から徒歩10分くらいにある三井住友銀行東館1階アース・ガーデンにて開催されています。
入場無料 会期中無休です
