ありがとう0円
20xx年、0円紙幣が発行された。
発端は、あるファストフード店の金額表だった。
『ありがとう 0円』
「感謝の気持ちは無料です」という、誰も深く考えなかった一文がSNSでバズり、「じゃあ感謝にも通貨をつけよう」という、誰も思いつかなかった発想が実現してしまった。
店では商品の売り上げと並べて、「本日の感謝収入」を誇らしげに公開した。数字が増えるほど“いい企業度”が高くなるらしく、他業種もこぞって参入した。いい企業かどうかが数字で測れるなんて、なんて便利な時代だろう。
やがて0円紙幣は商売だけでなく個人間にも広がり、「ありがとう」と言われたら支払うのが礼儀になった。礼儀とは、いつの時代も面倒くさい。
0円は足しても掛けても0円なので、お釣りにも使えないし、両替もできない。つまり、価値はない。だが、人は価値のないものほど熱心に集める。
使わないクーポンと利用していないポイントカードがそれを証明している。
巷では「0円紙幣を何枚持っているか」が“いい人”のステータスとなり、
人々はこぞって感謝を安売りし始めた。
安売りされた感謝は、もはや賞味期限切れのパンより扱いが雑だった。
会話の語尾には必ず「ありがとう」が付くようになり、日本語の言語体系が危ぶまれる事態にまで発展した。
挨拶。
「こんにちは、ありがとう」
「今日はいい天気ですね。ありがとう」
(なんか変だが、ここまでは許す)
愛の語らい。
「愛してるわ。ありがとう」
「僕も愛してるよ。ありがとう」
(愛の価値は0円だったらしい)
学校での会話。
「宿題忘れちゃった。ごめんなさい。ありがとう」
「廊下に立ってなさい! ありがとう」
(教育現場はすでに崩壊していた)
銀行強盗。
「金を出せ。ありがとう」
「まだお渡ししていませんが、ありがとう」
(もはや誰も状況を理解できない)
もう何が何だか、感謝しているんだか、していないんだか。たぶん、してないよね。
だが、言えば言うほど“いい人”に見えるのだから、人は言い続けた。0円紙幣の偽造、詐欺、闇取引が横行し、社会問題となったため、政府は日銀に増産を命じた。
しかし、0円紙幣には貨幣価値がないため、作れば作るほど赤字になる。国民の心を豊かにするために、国の財布は貧しくなった。
いつものことだ。ただより高いものはない。
この国は、それをようやく思い出した。
(了)
これを読んでくださる皆さんに感謝!
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #ありがとう0円
ストア、やってます。TALES作品を紙の本にしました。ここでしか読めない、作者あとがきを書きました。残りわずか。
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!