鏡に映る影
洗面所。鏡の前に立ち、歯磨きを始める。
私は右利きだ。なのに鏡の中の私は、いつも左手で歯ブラシを持つ。ときどき鏡の中の私も律儀に右利きのまま動く。今日はどちらだったか、確かめなかった。どうせ、この物語には何の関係もない些細なことだ。
歯ブラシを取り、緑のチューブの蓋を開ける。お気に入りの「ねりワサビ味」の歯磨き粉。ぴりっとした刺激が眠気を少し引き剥がしてくれる。それを歯ブラシにたっぷりつけて、磨き始める。
鏡の中の照明が、心なしか薄暗い。ああ、疲れてるんだな、と思う。シャカシャカと歯を磨きながら、ぼんやり鏡を見つめていると、右奥に男の影がよぎった。振り返る。誰もいない。
――お父さん、歯磨きの順番を待ってるのかな。
気にせずに再び磨き始める。すると今度は、髪を振り乱した女の影が、私のすぐ後ろに映り込んだ。ぎょっとして振り返る。やはり誰もいない。
――お母さんも待ってるの?
それにしても、鏡に映ったその顔は、ひどく疲れているように見えた。誰かに似ている気もしたけれど、うまく思い出せない。
気を取り直し、もう一度鏡に向き直る。今度は赤い影が、大きく鏡を横切った。振り返る。誰もいない。
――気のせいか。
そう思いながら前を向く……ように見せかけて、さっと振り返る。
赤い大きなだるまさんと、目が合った。
だるまさんが、ころんだ。
(了)
少しは涼しくなりましたか? 今夜も熱帯夜です~。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
小牧幸助さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#シロクマ文芸部 #洗面所
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!