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これっきりですか?

#ショートショート  本文:793字)

 駅のホーム。彼女は「またね」と手を振った。
 その笑顔をファインダーに収めて、僕はシャッターを切った。もう会うこともない。この恋は今日で終わりだ。

 川沿いの遊歩道を歩く。学生のころから何度も通った道だが、明日には引っ越す。この景色を見るのも最後だと思い、また一枚。

 昼に職場へ寄った。退職届は受理され、机の引き出しは空っぽになっている。同僚たちと握手を交わし、照れ隠しに笑いながらシャッターを切った。

 母校の校門。
 行きつけの喫茶店。
 祖父の眠る墓。
 夕焼けに染まる海。

 どこへ行っても、「もうここへ来ることはない」という思いが胸をよぎる。そのたびに、僕は黙って写真を撮った。

 このカメラは、数日前に奇妙な男から譲り受けたものだった。
「これを使えば、すべてに区切りがつく。これっきりにしろ」
 それだけ言い残して去っていったので、半信半疑のまま持ち歩いていた。

 夕暮れには残り一枚になっていた。
 最後は、来週取り壊される予定の自分のアパートを撮る。

 カシャ。

 カウンターを見る。四十八。フィルムを使い切った僕は、小さく息をついた。
「これですべて、これっきりだ」

 翌朝、別れたはずの彼女から「おはよう」と、何事もなかったかのようにメッセージが届いた。引っ越し業者は「トラックが故障した」と引き返し、会社からは「退職届がシュレッダーに巻き込まれて判読不能になったから、明日も普通に出勤してくれ」と電話が入った。アパートの解体工事も業者の夜逃げで白紙になったという。

 世界が、まるで強力なゴムで引き戻されるように、昨日までの日常へと猛烈な勢いで修復されていく。何ひとつ、終わっていない。

 首をかしげながらカメラを裏返すと、小さな説明書きが目に入った。
「すべて撮り終えたら、そのまま写真屋へ持っていき、現像してもらってください」
 その下にモデル名が印字されていた。

『使いっきりカメラ 48枚撮り』

(了)

 これっきりにならなくて、よかった、よかった。


はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #これっきりですか


TALESにて、アマノ文筆クラブ作品を連載中。毎週木曜6:30をお楽しみに。

では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。

#ファインダー #シャッター #カメラ #カウンター #フィルム #現像

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