マイクロフィルムが生まれた部屋で 〈1分で読める小さな物語〉
「マイクロフィルム、生産終了のお知らせ」。
その件名を見た瞬間、コーヒーを飲もうとしていた手が止まった。
長く記録を支えてきた仕組みが、一区切りを迎えたらしい。
🐾 🐾 🐾
棚には、白い紙箱が並んでいる。
どれも少し色あせて、角が柔らかくなっていた。
中には、細く巻かれたロールフィルム。
紙の代わりに情報を閉じ込めてきた、小さな記録の帯だ。
「これ、もう使わないんですか?」
後輩が紙箱を手に取りながら言った。
「最近は全部デジタルですし」
「今も見られるよ。リーダーはまだ作られてる」
保存室の隅にあるマイクロフィルムリーダーのスイッチを入れる。
青白い光がともり、ロールをセットすると、
古い文字や写真が静かに浮かび上がった。
「へぇ……ちゃんと見えるんですね」
「時間はかかるけど、確実に残る」
後輩がタブレットを開いたが、画面が固まった。
「えっ、フリーズしたかも……」
「ほらね。新しいものほど気分屋なんだ」
軽く笑って、ロールを巻き戻す。
「もう作られないんですよね」
「大きなメーカーはやめたけど、使う人がいれば続くと思う」
後輩はうなずき、紙箱をそっと棚に戻した。
その仕草が、少し丁寧で、なんだかうれしかった。
「データより不便そうだけど、なんか安心しますね」
「見えづらいけど、消えにくい。それも大事なことだと思う」
二人のあいだに静かな時間が流れた。
リーダーのライトが淡く揺れて、
ロールの表面に、小さな文字の列が光っていた。
「これが全部、誰かの仕事なんですね」
「そう。誰かが残したかった証拠だね」
画面を消すと、部屋が少し暗くなった。
紙箱を見上げながら思う。
消えていくのは道具じゃなくて、
記録を託す人の時間のほうかもしれない。
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