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この10年で完読した、たった5冊の小説──辻村深月『闇祓』


 読書が好きですか?
 これを読んでいるあなたは、おそらく本を愛している人だろう。

 私は、読書が好きで、そして嫌いだ。

 そんな私が、10年間で読めた、たった5冊の小説──その中から、とっておきの1冊を紹介したいと思う。



Ⅰ.読書が好きで嫌い


 心の病を患ってから、大好きだった読書ができなくなった。文章を読んでいると、吐き気がするようになってしまったのだ。

 活字が津波のように押し寄せ、脳が処理を拒否する。本の中で繰り広げられる”優しい嘘”に、現実とのギャップを痛感させられる。
 目がただ文字の上を滑り、何も中身が入ってこない。本を開いては閉じ、開いては閉じた。

 そうやって、何度も打ちのめされる。

 物語を素直に受け止められない自分に、嫌悪が募っていく。

 それでも、私は本を読むことを諦めきれなかった。砂漠をさまよう旅人のように、一滴の水を求めて。


 そんな中──、私が辻村深月の本に出会ったのは、偶然ではなかった。


Ⅱ.運命の出会い


「不登校が出てくる小説があるから、読んでみない?」
 母がそう言って手渡してくれたのが、辻村深月『かがみの孤城』だった。
 不登校経験のあった私は、躊躇いながらもその本に手を伸ばした。
 “読めない恐怖”すら超えて、どうしても惹かれたのだ。

 ページをめくるたびに、心の中でカチリと錠が外れていく。
 最後まで読み切った時、私は泣きながら笑っていた。

 その喜びようを見た母が、次に連れてきてくれたのが──今回の『闇祓』である。

「あなたの好きな辻村深月さんの本があったから、読んでみたら?」

 しかし、私は当初、その提案に懐疑的であった。一冊、読めただけで、好きな作家なんて言えるだろうか。”不登校”という自分にとって身近な題材があったから、たまたま読めただけなんじゃないか──。

 それでも、読みたい! その気持ちが抑えられなくなった私は、『闇祓』のページを捲ったのだった。


Ⅲ.『闇祓』が照らす現実の影


『闇祓 』/ 辻村深月

◆あらすじ

「あいつらが来ると、人が死ぬ」がキャッチコピーの、辻村深月本格派ホラーミステリー

 転校生の白石要は、何を考えているのか分からないような、ボサボサ頭の青年だった。
 優等生の澪は要に親切に接するが、要の言動に強烈な胸騒ぎを覚えるようになる。
 澪は憧れの先輩、神原一太に助けを求めるが──。

 人に心の闇を押し付ける「闇ハラスメント」
 学校、団地、会社──身近な場所で巻き起こる静かな違和感が、やがて大きな事件へと繋がっていく。
 果たして人間に巣食う闇を祓うことはできるのか──。

 津波のように押し寄せる文字の波を覚悟して開いた1ページ目は、しかし容易く私の脳に映像を描かせた。
 冒頭現れる転校生・白石要の姿かたちが、アニメーション映画みたいに、眼前に浮かび上がったのである。
 辻村さんの筆は、活字を映像に変換する魔法だ。
 “読めない私”の脳にも、物語がすっと染み込んでいった。

 魔法でスタートした航海を先へと押し進めたのは、この物語の特異なリズムだった。
 闇祓は一貫して、主人公にぴったり寄り添うような視点で描かれている。
 その軽快な書き口は、膨大な情報量に圧倒されることなく、一人の人間として物語の中を生きる感覚を与えてくれた。

 この作品では主人公がどんどん変わっていく。
 連作短編型の小説は、章ごとに集中力が途切れてしまうことが多く、特に苦手な分野だった。
 しかし、この小説はさくさく読めるからこそ、疲弊することなく新しい主人公にすぐに没入できた。
 一つ一つの話が完結するたびに、短い航海を繰り返すように、大海原を前進していけたのだ。

 この物語の魅力は、単なる読みやすさだけでは留まらない。
 日常に潜む小さな違和感を、大きな事件へと見事に繋げていく展開の巧みさ。それこそが、背筋をゾワゾワさせ、上質なホラーミステリーとしての面白さを担保している。


 しかし、この小説が私にとって単なるエンタメで終わらなかったのは、描かれている「息苦しさの解像度」が、あまりにもリアルだったからだ。

 この物語に出てくる「闇ハラスメント」は、逃げ場のない空間で、悪意と気付かせない曖昧な形のまま、人々に押しつけられる。笑顔で近づき、無意識の圧力で人を追い詰める。
 それは私が現実で感じていた、あの息苦しさと同じ匂いを放っていた。
 この曖昧さと息苦しさこそが、活字の津波に打ちのめされていた私が、現実で感じていた恐怖とリンクしたのだ。

 けれど、辻村深月の筆は決して暗くはない。
 闇の中にも、微かな光を差し込む。
 悪意に抗う人々の姿が、確かに描かれている。
 その存在が、「現実の息苦しさ」に直面する私には、救いの手のように感じられた。


IV.砂漠のオアシス


 この『闇祓』という本は、私にとって単なる本ではない。物語を読めない呪いを解き、再び読書へと踏み出させてくれた「救いの本」である。

 読書が好きで嫌いだった私が、『闇祓』と出会うまで、10年間でたった3冊しか読めなかった私が──この本を通じて得たものは大きい。

 それは日々の息苦しさへの共感と、悪意に抗う人々という希望だった。

 登場人物たちが闇に飲まれ、崩れ去ってしまう姿を、私は何度も見つめた。その姿に触れたからこそ、深く感じたことがある。

 自分を見失わせるものから逃げることは、弱さじゃない。

 それは、自分を守るための覚悟だ。

 闇を祓うとは、その覚悟を持って、どんなに闇に飲まれそうになっても光を探し続けること。

自分を取り戻すための、ちっぽけで大きな勇気だ。


 それから私の完読本リストに、辻村作品が増えるまで、時間は掛からなかった──。

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雀野 ひよ子(ゆっくり返信) 読んでくれて本当にありがとう🐣✨️ もしこのnoteが心に響いたり、新たな発見があったら、チップで応援してくれると嬉しいです! あなたのサポートが、探求の旅を続けるための最高のエネルギーになります☺️ これからもこの場所であなたを待っています🤝

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