これから曖昧さの時代が来る
これから曖昧さの時代が来るんじゃないか。
そんなふうに考えています。曖昧さの時代が来ると思う理由は、大きく3つあります。
理由1:結論ファースト時代からの揺り戻しが起きているから
現代は、曖昧さを避ける傾向が強い時代かもしれません。
ショート動画の隆盛、倍速視聴の常態化、陰謀論の蔓延。こうした現象に共通するのは「結論ファースト」という価値観のように思います。私たちは効率を求め、即座の答えを求め、白黒はっきりさせることを良しとしてきました。
でも、この流れは既に限界に達しつつあるのかもしれません。ショート動画の過剰摂取と不安や学習パフォーマンス低下の関連を示す研究も出てきています (e.g., Ye et al., 2022)。私たちのこころは、この結論ファーストな社会に疲れを感じているのではないでしょうか。
歴史は振り子のように揺れ動く、とよく言われますが、過度にわかりやすさを求める時代の次には、曖昧さを受け入れる時代が来るかもしれないなあと思っています。
すでにその兆候が見え始めているようにも思えます。ポッドキャストの人気がその一例です。明確な結論がないままに終わる議論、ゆっくりとした対話。そうしたコンテンツへの需要が高まっています。
また、今年日本の実写映画の中では1番の話題作『国宝』は、3時間にわたる大作であり、その中身も「分かりにくい」ものだったと思います(実際に李相日監督も「映画に行間を生み出したい」と語っています)。情報の爆発的摂取による疲弊から、人々は曖昧さの中で休息を求めているのかもしれません。
理由2:AI時代が曖昧さを必要としているから
興味深いのは、最先端のテクノロジー企業も、曖昧さの重要性を認識し始めているように見えることです。
たとえばOpenAIのデザイナー求人には「曖昧さへの耐性 (ambiguity tolerance)」が明記されているそうです。「曖昧な問題に取り組み、明確なビジョンに形作ることを楽しめる方」が求められているんですね。
なぜAI企業が曖昧さを重視するのか。おそらく、AI時代ほど、未来が読みにくい時代はなかなかないからと思います。技術の進化速度が速すぎて、1年後、5年後の社会がどうなっているか、誰にも予測しきれません(わたし自身追いつけていません…)。
こうした状況下で必要なのは、明確な答えを出し続ける能力だけではなく、曖昧な状態に留まりながら思考を続ける能力なのかもしれません。答えがすぐに出ない状況の中で、焦らずに考え続けられること。それがこれからの時代に求められているんじゃないかと思います。
ちなみに、わたしは、曖昧さへの耐性を研究してきました (e.g., Hitsuwari & Nomura, 2021)。どのようにすれば、この力、態度を向上させていけるかを示していくことが、研究者としてのわたしの仕事に1つと考えています (1つの答えとして、俳句の鑑賞と創作が曖昧さへの受容を高めることを示しました; Hitsuwari & Nomura, 2023)。

理由3:正解のない課題に向き合う術になるから
もう今既にそうですが、これからの時代、論理的な方法だけでは立ち行かない課題がさらに増えていくように思います。
気候変動、格差の問題、多様性の尊重。こうした課題には、明確な正解がありません。ある視点から見れば正しいことが、別の視点から見れば問題を孕んでいる。そういう複雑な問題に、私たちはこれからもっと向き合わなければならないんじゃないでしょうか。
そんなとき、すぐに白黒をつけようとすると、対立が生まれます。でも、曖昧さを受け入れることができれば、違う道が開けるかもしれません。すぐに結論を出さず、グレーゾーンに留まる。相手の意見を聞き、自分の考えを問い直す。そうした対話のプロセスの中で、新しい理解が生まれることもあるでしょう。
完璧な答えは出ないかもしれない。でも、共に考え続けることはできる。曖昧さへの耐性は、そういう「正解のない問題」と向き合うための、大切な術になるんじゃないかと思います。
おわりに
曖昧さへの耐性やそれを向上させる俳句の研究の話をちらっと書きましたが、他にもさまざまな研究をしています。その多くが芸術・芸道に関するもので(雅楽や書道、いけばな等)、どれも少なからず「曖昧さ」(間や非対称性もその仲間と思っていますが)を孕んでいます。これらがより楽しまれるようになることで、芸術・芸道文脈を越えた状況でも(仕事とか)、曖昧さを楽しめるようになるのでは?と思っています。曖昧さを愛する人が増えていくことがいい社会を作っていくことと信じています。
すぐに答えを出さず、相手の話を聞く。白黒つけず、共に考える。そんな対話が当たり前になる社会が来たらいいなと、期待しています。
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そんな曖昧さを一緒に楽しみ、研究活動もしていこうという「あいまいと」というコミュニティを運営しています。月額330円から参加できる研究サポーターになって頂くことが必要ですが、曖昧な対話を楽しみつつ、上記のような研究(ポッドキャストの研究はこのコミュニティメンバーと行いました)もみんなでやっていきたいと思っています。ぜひご参加ください!
こちらのリンクから、サポーターになって頂くと閲覧できる「活動報告」にコミュニティの参加リンクを掲載しています。
