【短編小説】限界直前の肛門
「『限界直前の肛門』……か。」
狭いワンルームに積み上がったビデオテープのラベルを見て絶句した。
インターネットの普及で生まれた流動的な犯罪組織の上流と目されるグループが拠点としていたアパートの家宅捜索。
なかなか進まない実態解明のため、とにかく手がかりになりそうなものは全て押収して分析せよというお達しで、ここ半年くらい何度もこういう捜索の応援に駆り出されている。
2ヶ月前は、大量の紙とクリップを押収した。
飾り付けみたいに四方に沢山のクリップがつけられた新聞や書類。クリップだけがパンパンに詰められたお菓子の缶などを大量に持ち帰った。
新聞は種類、日付、内容で分類した。
紙類は殆どが警察の広報文書で、こんなタレントが一日署長やったのかという発見はあったものの、その程度のもので、新聞と同じように種類、日付、内容で分類。
クリップは大小さまざまな種類があり、さらに色が塗られていたり、カラーテープが巻かれたり、意味があるかどうか分からないがとにかく分類。
何かの手掛かりになるのではと細かく記録するのに一週間以上かかった。
その記録が何か結果を生んだという話はまだ無い。
そういう仕事だと分かってはいるものの、なかなか大変だ。
今回はクリップに比べたら大きく数も圧倒的に少ないだろうけれど、これを全部見るのかと思うと今からゲンナリする。『限界直前の肛門』だ。
もちろんそれはグループの陽動かもしれない。
情報は何もなく、警察に無駄骨を折らせたいだけかもしれない。
きっとそうなのだろう。
しかし何かあるかもしれない。ラベルと内容が異なるかもしれない。
どこかに大事な情報を隠しているかもしれない。
それを調べるのが警察の仕事だ。ビデオは最初から最後まで確認しないといけない。調べないで何かあった時は大変だ。
給料をもらって『限界直前の肛門 』を確認するのが仕事だ。
「『限界直前の肛門 #15』!」
同僚が他の山から別のビデオを発見して声をあげた。
番号なしと#15、他に最低でも13本あるのか。#15が最後であって欲しい。
テレビドラマではこういうビデオをチェックしてくれる閑職の特命係なんて存在が出てくる。現実はそうはいかない。
俺が見るのか同僚が見るのか。
手分けして見るからどちらも、何番目かを見ることになるのだろう。
頼むから何か成果になりそうなものが記録されていて欲しい。
少なくともラベルとは異なる何か日常的な映像であって欲しい。
「『限界直後の肛門 #23』!」
直後もあるのか。その数字、直前からの通し番号であることを願う。
通し番号にならないけれど#1から始まらないパターンも考えられる。
そうなると欠番を探すことになる。肛門のケツ番。
今は考えるのは止めよう。
給料をもらって『限界直前直後の肛門 』を見るのが俺の仕事だ。
