静かさを撮る(録る)というパラドックス
映像制作を続けていく中で、自分の中にどうしても抜けきらない「テレビ的な感覚」がある。テレビの仕事もこれまでどおり続けているし、そこで磨かれた技術は今でも自分の根幹であるが…。
その一方で——
YouTubeやVimeoと言った新たな映像表現の場を知り、静かに興奮している自分がいる。
テレビとは異なる文脈、異なる視聴態度、異なる“間(ま)”の文化。その中で、自分の表現観が少しずつ変化しつつあるのを感じる。
その気づきの一つが、
「作り込むことだけが正解ではない」
むしろ “作り込まない作り込み” の面白さに価値がある、ということである。
テレビマンなら分かると思うが、CMや冒頭・エンド以外で3秒のノンモンがあるとドキッとしてしまう。それはそれは恐ろしく長い時間に感じられる…。「隙間恐怖症」とでも表現しようか、常に情報を乗せ続けないと落ち着かないのだ。
しかし、釣りという行為には本来 “間(ま)” があり、その静けさの中にこそ深い魅力が宿っている。
若いYouTuberたちは会話の間を切り詰め、ジェットカットでテンポを作る。それはそれで理にかなっているし、情報発信としては一つの正解。しかし自分はもう若くない。若い世代向けの「新鮮な情報」ではなく、主にシニア層の視聴者に向けた“静かな体験”の提供である。
もちろん、制作者としてストーリーを構成し、ドラマを組み上げる作品づくりも大切にしている。それを続けつつ、YouTubeを始めたことで新たに知ったのは、「素材そのものにも商品としての価値がある」という驚きである。
本編のために撮影した素材を、ほぼ編集せずに公開しても一定の需要がある。むしろその“素のままの静けさ”が心地よいと感じる人は意外と多く、作品以上に再生されるケースすらある。テレビ的な発想では考えにくかった現象だ。
実は…(ナイショ)
これまでも綺麗なヒットシーンや印象的な映像を、自分専用に編集して、酒のツマミの映像にして楽しんでいた。
つまり、需要を自分が感じていたということ。
2025年の今年、自分の中で芽生えたテーマがある。それが “静かな釣り” である。釣りをしている時、視野は狭くなりがちだ。撮影者の時の私は釣り人から一歩引いた立ち位置で、釣り人と景色を同じフレームに捉えている。自然と向き合うその姿は、とても美しく、鳥の囀り、川の流れの音、打ち寄せる波の音と、とても音が豊かだ。
わかりやすくしようと釣りの解説をすればするほど、釣りをしない人は離れていく。これもまた、テレビの釣り番組的には不都合な真実であったりする。そこで可能な限り音楽を敷かず、現場の音そのものだけで視聴維持率を保ってみたい——。
映像を生業とする者として、このシンプルさこそが一つの到達点だと思っている。
そんなこともあり、今年は音関連の機材を大幅に更新した。
出力先はテレビでも映画でもなく、あくまでも YouTube。
だから音声さんが使うような業務用機材ではない。しかし、今の安価な機材の性能は驚くべきものがある。
■ Zoom H4 Essential

WSU-1 へアリーウィンドスクリーンを装着して使用している。
風切音はかなり抑えられる。
同社H1 からの更新である。XLR入力を備え、環境音の立体感や奥行きがはっきり掴めるようになった。フィールドレコーダーとして自然音の“深み”を捉えるには十分以上の性能である。
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風切音はかなり抑えられる
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■ Hollyland Lark MAX 2(送信機4台)

すでに使用している DJI Mic 2 に加えて導入したワイヤレスマイク。
Lark MAX 2 はコンデンサ寄りのクリアさが特徴で、人の声の空気感や繊細さを拾うのが得意。
一方、DJI Mic 2 はナチュラルで耳馴染みが良い。
この2台体制により、釣りの“静かな場”と“語り”のどちらも最適な音で記録できるようになった。
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■ DJI MIC 2
LARK MAX 2 を導入してから、使用用途がはっきりとした。
当たり前であるが、DJI製品との相性がいいので、OSMOシリーズ各種に受信機を介さず接続する使用法が増えると思う。
VLOGはもちろんであるが、被写体撮影時に自分につけておくことで、音声で撮影内容のメモがとれることも便利だ。

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私はあくまでもワンオペ撮影が前提なので、現場に持ち込める機材選びには限界がある。しかし、それでも小さな筐体の民生機で没入感を表現できるという事実は、映像制作を志す若い人たちにとって一つの希望になるのではないかと思う。
本格的な運用はこれから ー 実験にワクワク
ワイヤレスマイクといえば、一般的には「人の声」を録るための機材である。自分が導入した Hollyland Lark MAX 2 や DJI Mic 2 も、まさに声収録を軸に設計されている。
しかし、音をもっと大切にしようと思いはじめた今だからこそ、小型ワイヤレスを“自然音のマイク”として使う可能性に、静かにワクワクしている。
まだ本格的には試していないが、小さくて軽い送信機を自然の中にそっと置くことで、これまでの撮影では拾えなかった“ミクロな音”が録れるのではないかと思っている。
例えば——
風に葉が揺れる木の枝に、
トンボがとまる葉の先に、
秋の虫が鳴く草むらに、
バードフィーダーの片隅に、
通常のマイクでは置けない位置に仕込むことができる。
そうすれば、人間の耳では到底聞こえない距離感の音——
が録れるのではないかと楽しみにしている。
これは、自分が目指している「静かな釣り」の世界観とも相性が良い。
もちろん、注意点もある。
ワイヤレスマイクのノイズキャンセル(ノイズリダクション)は人の声を聞きやすくするための処理なので、自然音を録る際は必ず OFF にする必要があるだろう。
それはそうだ、川音、虫の鳴き声、風の揺らぎなど、普通は"ノイズ"以外の何ものでもない。
気づけば今年もあっという間に12月である。
クラウドファンディング案件をはじめ、未編集の素材がまだまだ積み上がっている。
ひとつひとつの素材と静かに向き合いながら、2026年は“静けさ”を軸とした新たな表現に挑戦していきたい。
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