経営者にも、先発、中継ぎ、抑えがいる
経営者と一口に言っても、得意な局面は人によって違います。
何もないところから会社を立ち上げるのが得意な人。
事業を一気に大きくするのが得意な人。
安定した組織をつくるのが得意な人。
混乱した状態を立て直すのが得意な人。
そして、自分の役割を終え、次の人へ引き継ぐのが得意な人。
野球でいえば、先発、中継ぎ、抑えのようなものかもしれません。
先発には、試合の流れをつくり、長い時間をかけて組み立てる力が求められます。
中継ぎには、変化した状況に対応し、崩れかけた流れを整えて、次につなぐ力が必要です。
抑えには、最後の局面を引き受け、試合を締める力が求められます。
どの役割が優れているという話ではありません。
大切なのは、会社が置かれている状況と、その経営者が力を発揮できる局面が合っていることです。
自分のタイプを理解しているとは限らない
ただ、ここには一つ難しい問題があります。
経営者本人が、自分はどのタイプなのかを理解しているとは限らないことです。
長期的に会社を育てることが得意だと思っていても、実際には、混乱した局面を整理するときに最も力を発揮する人かもしれません。
改革が得意だと思っていても、よかれと思って進めた改革が、かえって組織のバランスを崩してしまうこともあります。
反対に、派手な改革は得意ではなくても、仕組みを整え、人を育て、組織を安定させることに優れた人もいます。
人は、自分が成功した理由を必ずしも正確に理解しているわけではありません。
成果が出れば、自分の判断や能力が正しかったと考えます。
けれど実際には、その人の強みと、そのとき会社が置かれていた局面が、うまく重なっていただけかもしれません。
先発として優秀な人が、抑えでも同じように力を発揮できるとは限りません。
途中から流れを変えることが得意な人が、最初から最後まで試合を組み立てられるとも限りません。
それでも「経営者」という肩書きがつくと、あらゆる局面で同じように力を発揮できるように見えてしまいます。
従業員から見れば、なおさらです。
従業員から見ると、経営者はみんな同じに見えます。
少なくとも、「経営者」という肩書きだけでは、その人がどのタイプなのかを見分けることはできません。
その人が、会社を始めることに向いているのか。
大きくすることに向いているのか。
安定させることに向いているのか。
立て直すことに向いているのか。
就任時の言葉だけでも、簡単には区別できません。
しかも、本人にも自覚がなければ、周囲が見分けることはさらに難しくなります。
人は、自分の得意な方法で問題を解決しようとします。
新しいものをつくるのが得意な人は、新しい事業を始めます。
仕組みを整えるのが得意な人は、ルールや制度をつくります。
変化を起こすのが得意な人は、組織や戦略を大きく動かします。
それ自体が悪いわけではありません。
ただ、すべての局面に同じ方法が通用するわけでもありません。
得意なやり方を繰り返すほど成果が出ることもあれば、そのやり方が合わなくなったことに気づけないまま、組織を動かし続けてしまうこともあります。
だからこそ、経営者には、自分が何を得意としているのかだけでなく、どのような局面では自分の判断が機能しにくくなるのかまで理解することが求められるのだと思います。
何を始めることが得意なのか。
何を整えることが得意なのか。
どこまでなら自分が投げるべきなのか。
どのタイミングで、別の人にボールを渡すべきなのか。
マウンドを降りる力
優秀な経営者とは、どのような状況でも一人で投げ切れる人ではないのかもしれません。
自分が先発なのか、中継ぎなのか、抑えなのかを知っている人。
そして、自分の役割が終わったときに、次の人へきちんとボールを渡せる人です。
これは経営者に限らず、チームを率いるリーダーにも当てはまる話でしょう。
プロジェクトの立ち上げが得意な人もいれば、混乱した途中から入り、流れを整えることに向いている人もいます。
反対に、役割を終えたあとも、自分が投げ続けることにこだわってしまう人もいます。
リーダーの力量は、投げる力だけでは決まりません。
自分がどこで投げるべきかを知っているか。
役割を終えたあとも、マウンドに立ち続けようとしていないか。
そして、必要なときに次の人へ任せられるか。
その自己認識にこそ、経営者としての成熟が表れるのだと思います。
