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“タイを歩いて考えたこと” 第4回|なぜ広告のモデルは“東アジア顔”が多いのか?

── タイ人の美意識と文化の交差点を探る

バンコクの街を歩いていて、ふと感じた違和感。
それは、街中の広告に登場するモデルたちの顔立ちが、どれも「東アジア的」に見えたこと。
美白肌にシャープなフェイスライン、ぱっちりとした二重まぶたに高い鼻筋。韓国や日本のファッション誌に出てくるような顔が、バンコクのビルボードやショッピングモールのポスターを埋め尽くしていました。
当初「あぁ、タイでも韓流ブームか」なんて思いで眺めていましたが、ある歯科クリニックの広告の医師まで東アジア顔となるといよいよ
「なぜタイ人らしいモデルじゃない?」という
そんな素朴な疑問を抱いたことが、今回の考察の出発点でした。


美の規範はどこからやって来たのか?

世界の多くの地域と同じく、タイにおいても“美の基準”は時代とともに変化してきました。なかでも、近年の変化において重要なキーワードは韓流です。
2000年代初頭から徐々に広がり始めた韓国の音楽、ドラマ、ファッション、そして美容文化。いわゆる「K-カルチャー」の潮流は、今や単なる流行ではなく、東南アジアの若者文化の基盤の一つとなっています。K-POPアイドルのメイクや髪型、立ち振る舞いは、若者たちの「なりたい自分」の指標となり、美容外科やメイク市場にも大きな影響を与えてきました。
この結果、「韓国的な顔立ち」がタイ国内でも“洗練された美しさ”として認識されるようになり、広告モデルの選定にも如実に反映されているようです。


テレビと広告がつくる「東アジア的ルック」

実際、バンコクの広告では、東アジア的な外見を持つモデルが美容・化粧品・不動産・デジタル機器の広告に数多く登場しています。
これは単なる外見の嗜好ではなく、「国際性」「成功」「テクノロジー」「清潔感」など、現代的な価値観を象徴する“記号”としての顔の選択なのです。
広告は人々の欲望を代弁する鏡ですから、都市部の中間層以上に向けて発信する場合、そうした「上昇志向」を体現する顔が好まれるのは、ある意味で合理的とも言えるでしょう。


タイは“東アジアの外側”から“内側”へ?

ここで一つ注目したいのは、タイが経済・文化の両面で「東アジア圏」へ接近しているという現実です。たとえば

•中国との経済的関係の深化(観光・不動産投資・AI開発など)

•日本企業による製造業・自動車産業の長年の投資と雇用創出

•韓国文化の浸透(ドラマ、音楽、美容、アパレル)

こうした背景のなかで、東アジア的な顔立ちは、「先進的」「クリーン」「国際的」といった意味をまとうブランド記号として消費されているのではないでしょうか。顔そのものが、タイ社会の進みたい未来の姿と重なっているようにも感じられます。


社会階層と“理想の顔”の重なり

もうひとつ見逃せない要素が、美意識と階層意識の結びつきです。
タイでは長年、「色白=上流階級」という価値観が根強く残っています。これは、屋外労働によって日焼けする層と、屋内で働くことができる層との歴史的な差異に基づいています。白い肌は「労働から距離を置ける余裕」を象徴し、すなわち社会的成功や経済的豊かさを暗示するのです。
このため、広告でも色白で整った顔立ちが理想とされやすく、結果として「東アジア的な顔」が成功や憧れの象徴として際立っていきます。


多様性ではなく、あえて“選ばれた顔”

街を歩けば、タイの人々の顔立ちはじつに多様です。華人系、インド系、モン系、マレー系、ミャンマー系など、多様なルーツが共存する社会です。
にもかかわらず、広告の中ではその多様性はあまり可視化されていません。むしろ、あえて特定の“理想の顔”が前景化されている。その理由は、「混ざっている」ことではなく、「明確な aspirational(なりたい)イメージ」を提示することが、広告の持つ役割だからです。
私たち日本人も「多様性」という言葉をよく使いますが、広告の世界では、しばしばその“逆”が戦略的に採用されているようです。


🧭今回のテーマで感じたこと

こうした“顔の選択”を通して見えてくるのは、タイという国が今まさに、「ローカル」と「グローバル」の狭間で、自らの美意識や社会像を模索しているという姿です。
タイ的な自分に、東アジア的な理想を重ねる。その行為は劣等感ではなく、「変わること」「取り入れること」への前向きな意思のあらわれなのかもしれません。

理想の顔とは、単なる“美しい顔”ではなく、
「こうなりたい自分のかたち」。
タイの街角は、そんな自己イメージの進化を、今日も語りかけてきます。


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