“タイを歩いて考えたこと” 第3回|街にあふれる広告──“見せる文化”の裏側を読み解く
バンコクの街を歩いていると、まず目に入ってくるのは、巨大な広告看板の数々。
高架鉄道の柱、駅の壁面、ビルの側面、BTS車内の椅子の横、さらには歩道橋の足元まで──。
視界のあらゆる空間が「広告」に埋め尽くされています。
歩けば歩くほど感じるのは、都市空間の“情報密度”の高さです。
しかも、その多くが「広告」であるという点に、僕は深い興味を覚えました。
ファッションやコスメのポスターはもちろん、携帯会社、不動産、自動車、電子マネー、さらに歯医者まで。
都市が「広告によって構成されている」と言っても過言ではないほど、視覚的なメッセージが街中を覆っています。
今回は、この“広告過多”ともいえる現象を手がかりに、タイ独自の社会構造や価値観について考察してみたいと思います。

🏙️「Plan B」が作る都市の景色
街を歩くなかで、ある共通のロゴが多くの広告に記されていることに気づきました。
それが、「Plan B」という名称です。
Plan B Media Public Company Limitedは、タイ最大の屋外広告企業であり、バンコク市内だけで数千面におよぶ広告媒体を展開しています。
高架鉄道BTSの車内・駅構内・橋脚・歩道橋・バス停──あらゆる公共空間にデジタルサイネージやビルボードを設置し、都市そのものを広告空間へと変えているのです。
同社は行政とも連携し、都市インフラと広告事業のハブのような役割を果たしています。
つまり、Plan Bは単なる広告会社ではなく、都市空間を編成するプラットフォーム事業者と呼ぶべき存在なのです。

🎯目立つことは“善”──見せることの文化的意味
なぜこれほどまでに広告が都市を覆っているのでしょうか。
その背景には、タイにおける“見せること”の文化的な意味合いが深く関わっています。
タイ社会には、「目立つこと」や「人から注目されること」がポジティブに捉えられる傾向があります。
これは、仏教的価値観に根ざした「功徳(クン)」という考え方と無関係ではありません。
功徳とは、人に善行を見せることで徳を積むという思想であり、社会的に可視化されることそのものが価値を生むのです。
また、家族や地域、学校といった共同体との結びつきが強い文化のなかで、「自分の成功」や「誰かに認められていること」を示すことは、家族や集団全体の誇りにもつながります。
そのため、広告やブランド品、SNS上の自己演出などが、社会的承認の一環として積極的に活用される傾向にあります。
📱スマホ社会と広告の“空間化”
タイはスマートフォンの普及率が非常に高く、SNS(特にFacebook、Instagram、TikTok)の利用時間も東南アジア随一とされています。
都市生活とSNSはほぼ一体化しており、広告もその中で進化を遂げています。
街に溢れる広告は、もはや単なる宣伝ではなく、「映える空間」としての役割も担っているのです。
実際、広告のビジュアルは非常に洗練されており、色彩・構図・フォント選びに至るまで、写真や動画に撮られることを前提に設計されています。
つまり広告とは、「都市のインテリア」であり、同時に「個人の自己表現の背景」でもあるのです。
🧬広告は社会の“自己像”を映し出す
タイの広告は、感情的でポジティブなイメージを前面に押し出すものが多く見受けられます。
たとえば──
幸せそうな家族の笑顔
自信に満ちた女性モデルの表情
スマホを手にする快活な若者たち
これらは単なる購買の誘導ではなく、「こうなりたい」という理想像、「この商品があれば実現できるかもしれない未来像」を表現しています。
これは、経済成長と都市化を急速に経験している国に特徴的な“未来志向の広告文化”とも言えます。
「まだ手に入れていないけれど、希望はある」──そんな期待と欲望を広告が代弁しているのです。
📊広告と都市開発──“公共性”の再定義
もうひとつ見逃せないのが、広告事業と都市インフラの密接な関係です。
タイの公共施設や交通インフラの整備資金の一部は、屋外広告の収益によって支えられています。
このような構造のなかでは、広告は景観を乱すものではなく、「都市機能を維持・発展させる財源」として、積極的に活用されているのです。
つまりタイでは、広告には“公共性”があるとみなされているとも言えるでしょう。
これは、広告を制限し景観保護を重視する日本の都市政策とは対照的な考え方です。
🧭今回のテーマで感じたこと
僕は日本の街中でしばしば「情報過多に疲れる」と感じます。
けれど、バンコクの広告を見ていて感じたのは、それが単なる過剰さではなく、「社会が何に価値を置いているのか」を映し出す文化の表現だということです。
広告は、その社会の“鏡”です。
何が幸福とされ、何を成功とし、どこに向かって進もうとしているのか。
そうした集合的な自己像が、都市の壁面に映し出されているのです。
誰よりも雄弁に、誰よりも明るく、未来の自分を投影しているかのようにも思えました。
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